耳鳴

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すると紅茶の用意ができた天ヶ瀬がテーブルに近づいてきた。 「九条さんお待たせしました。アールグレーです」 「ありがとう」 ティーポットからカップに紅茶を注ぐと天ヶ瀬が隣のテーブルから椅子を持って来て腰掛けた。 「さあ九条さん、話の続きをお願いします」 「忘れてなかったんだ……」 「こんな短時間で忘れる方がおかしいです。ほら話しなさい」 「……遙加の耳鳴りは一種の予知だよ。地震が起きる前は気圧が下がるんだ。普通の人には感じられない気圧の変化を遙加は敏感に感じ取ってしまうんだ。 だから予知というよりも動物と同じように危険を察知していると言った方が近いのかも知れないね」 「薫、私は原始的ってこと?」 「いや、そうではなくて敏感なんだと思うよ。ということでこの話はここで終わりにするよ天ヶ瀬。さあ店長は仕事に戻って」 「はいはい、もう邪魔しませんからごゆっくりどうぞ。じゃあまたね遙加ちゃん」 「はい、ご心配おかけしました」 遙加に向けてにっこりと微笑んだ天ヶ瀬は九条をひと睨みしてから仕事に戻った。 その後遙加は本来の目的だった苺のムースとプティフールを試食した。大満足だとテーブルにやってきたシェフに伝えた後2人はいちご談義で盛り上がった。それを九条薫は微笑みながらただ見つめていた。 その様子を少し離れたところからは天ヶ瀬が呆れたようにみていた。 『本当に嫉妬深いんだから九条さんは』 本当は本人に直接訴えたい天ヶ瀬だった。  人は秘密を共有するとその相手にとって特別な人になるのだという。
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