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理不尽
満開の桜が新入生たちの門出を祝福しているかのようにうららかな季節を迎え人々の心は浮き足立っていた。
ブルーローズのメンバーは全員無事希望した進路を勝ち取った。その中のある人物は入学前からとんでもない有名人になってしまった。
話は去年の5月に遡る。
1年前の春休みにバンド活動に参加することになった岩館秋彦は、如月と進路に関する雑談をしていた時にある条件を出されてしまった。彼は当初ピアノ科を希望していた。しかしプロとしてバンド活動をしていくのならピアノ科ではなく作曲科を希望していると、ポロッとこぼしてしまったのだ。
すると如月は何を思ったのかこんな事を言い出した。
「岩館くん、国内のコンクールはいくつも優勝していたわよね」
「あぁ、よく知ってるね。高松国際とか仙台国際、去年毎コンも優勝したよ」
岩館と如月のつながりは単なる部活の部員と部長。それ以上でもそれ以下でもない。
「岩館くん、ピアノ科に行ったら海外のコンクールも絶対入賞していたはずよね」
「絶対はどうかは分からないな。でも、もう作曲科を受験することにしたからそれはないかな」
すると如月が不敵な笑みを浮かべた。
「だったら、今年海外コンクールに出て優勝しちゃえばいいんじゃない? 岩館くんだったらできるでしょ」
「どうしてそうなるんだよ……」
「じゃ、今からならヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールに間に合うから出場してね。岩館くんのピアノ講師とご両親も了承済みだから心配しないで」
「いや、心配しかないんだけど……。そんなことして大学受験失敗したらどうするんだよ……」
「そうしたら、ブルーローズでの活動は無しってことで! よろしくね」
「よろしくね、じゃないだろ。全く言い出したら聞かないんだから……分かったから俺の貴重な時間を邪魔するような行動だけはしないでくれよな。それから全部上手く行ったらブルーローズの作曲もさせてもらうからな」
「勿論よ。お互い頑張りましょうね」
岩館はまんまと如月の企てに乗せられてしまったのだった。
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