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おとなしく従う井原さん。ウェーブヘアが今日も綺麗だ。そしてわたしは、自分の肘を指し、
「ここはなんと言いますか?」
「ヒザ」釣られて言ってしまった井原さんがキュートである。仕事で滅多にミスなんかしないひとなのに。「そうかぁ……懐かしいわ……七宮さんの世代は知らないでしょう? 十回十回クイズなんて……」
――神が光臨した。十回十回クイズとは、同じ単語を十回繰り返して言ったのちに、引っ掛け問題を出すものだ。今回なら、ピザに釣られて、本来は『肘』と言うべきところを『ヒザ』と言ってしまう。
そしてこのネタは。細田光先生の前作、『水のようなひと』という青春小説で登場する。――これを知っているということはつまり……。
いや。趣味で小説書くひとって、割とリアルではカミングアウトしないひとが多いと聞く。光先生もそうだって聞くし。だったら……わたしは。
じっと井原さんの目を見つけ、手を握る。「……井原さん。もし、困ったことがあったら、遠慮なく……言ってくださいね」
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