◇01. 推し作家がいるわたしの幸せ。【本編】

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「はい。そうですね」にっこりとわたしは笑う。「……井原さんがいなくなると寂しくなりますが……楽しく見送って差し上げたいですね」 「そうだね。色々と大変だろうけどよろしく」 「……はい。分かりました」  そうしてにこやかに微笑み自席に戻るのだが――今夜、いったいわたしにどんな展開が訪れるのかを、このときのわたしはまだ――知らないでいる。  * * * 「退職することになり、申し訳ありません。……せっかくご縁があって働かせて頂いておりましたが……結婚出産後は、専業主婦として育児に専念してみたく……思ったんです」  仕事にばりばりと打ち込む井原さんにしては意外な発言だった。さばさばしている彼女だけれど、不妊治療も相当大変だったらしい。賢明な彼女は、その苦労を表に出すことはなかったが……ああ泣ける。ところで真島ックス。ちゃんと井原さんの話を聞け。唐揚げ食べるより大事なことがあるだろ。 「残り短い期間となりますが、最後までしっかり働けたらいいなと思います。……皆様、今日は、特別な会を開いて下さり、ありがとうございました……」
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