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それは一月の終わり、一年でもっとも寒さが厳しくなる頃だった。
「山下君、君宛てに手紙が来てるよ」
山下耕一郎と僕はN市内にある一軒家で一緒に暮らしていた。
「誰からだい?」
「…本郷青児、と書いてある。知ってる人?」
山下は何かを思い出そうとでもするように上を向いたが、すぐに僕の方を見た。
「読んでくれたまえ」
いつもこうだ。山下はほんとうにめんどくさがりで、年賀状すら絶対自分で見ようとはしないのだ。
しかたなく僕は封を切って読み始めた。
『山下君、久しぶりだね。覚えているかい?わざわざこんな手紙を書いたのは他でもない。最近ちょっと不安なことがあるのだ。誰にも相談できない、君にしかわかってくれないようなことだ。よかったら一度、僕が今住んでいる別荘へ来てくれないだろうか。もちろんそれなりのお礼はさせていただくよ。場所は住所を見てくれればわかると思うが、とりあえず駅からの道のりも書いておく。これを読んだらいつでもいいから来てくれないか。待ってるよ。
青児』
読み終えて山下の方を見てみたが、表情は変わっていなかった。いや、ほんの少し考え事をしているように見えた。
「誰なんだい?僕は知らないな」
「ん?ああ、大学の時に少しだけ一緒だったやつさ」
「まさか行くとか言わないよね。書いてある住所を見る限り、S県のE町だから雪かもしれないし…」
「行こう」
僕の言葉をさえぎってあっさりと山下は言った。
「いい町だよ。君の好きな温泉もある」
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