初恋と罪

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初恋と罪

 僕にとっての初恋は、多分中学生の時のアレだったんだと思う。  今でも忘れられない一つの恋の話がある。……うん、旦那の初恋の話なんか聞きたくないだろうけどさ、今回の件に無関係じゃないんだ。だから、しっかり聞いて欲しい。僕達にとって、とても大切な話だから。  小学校の時、僕は自分が本気でサッカー選手になれると思っていた。恥ずかしいことだけど、己には本当にその才能があると思ってたんだ。サッカー一筋だったから、女子に目を向けることもなく、恋らしい恋をしたこともなかったってわけだね。  まあ中学生になって完璧に打ち砕かれたんだけども。……なんせ、全国に行くくらい強い学校だったんだ。小学校でエースだった自分が、まさか二軍スタートだなんてどうして想像できる?  きっと自分はサッカーの神様に愛されてて、他の人ほど努力しなくたってプロになれると滑稽にも信じていたのさ。結局、そんなわけもなかったから今サラリーマンしてるんだけどね。  そこには恵まれた体格と身体能力にあぐらを掻いて、練習もどこか手抜き気味にやってた僕なんか足元にも及ばない……そんな凄い選手がたくさんいたんだ。  奢り高ぶったプライドが、粉々になるのを感じたよ。  そしてあろうことか当時の僕は、そんな自分の弱さを認める勇気がなかった。自分は才能があるんだ、神様に選ばれた天才なんだと信じたかった。だから、自分の力を生かさないコーチや、ポジションを奪った先輩達を逆恨みした挙句、ソッコーでサッカー部をやめようとしたわけ。  そんな時、僕を引き留めたのが――女子マネージャーをしてた、聖奈(せいな)先輩だったんだ。 『ふーん、逃げるんだ。とんだ負け犬だな』  負け犬。そう言われてカチンと来て、僕は彼女に思わず掴みかかってしまった。あんたに何がわかるんだ、この惨めな気持ちをどうして理解できるんだ、って。  で、返り討ちにされた。  女だけど彼女は体を鍛えてたし、柔道の心得もあってすっごい強かったんだ。その場で見事に転がされて、彼女の顔を見上げた時のことは今でも忘れられないよ。 『すぐに暴力に訴える。弱虫の典型だな』  彼女はじっと僕を見下ろして言ったよ。 『本当に強い奴は、気に喰わないことを言われても我慢できる。あるいは筋の通った反論ができるってなもんだ。でもお前はそれができなくて、暴力振るうことであたしを黙らせようとした。図星突かれてびびったからだろ。……まあ、やめたければやめろよ。うちのサッカー部に必要なのは才能どうたらじゃない、努力する“勇気”がある奴だけだからな。今のお前じゃ、ボール代わりにてめえが蹴られるのがオチってなもんさ』  よくもまあ、ペラペラとこれだけ煽ることができたもんだ。とはいえ、中一のガキだった僕には、そんな簡単な挑発を受け流すだけの器量もなく。ようするに、あっさりと乗せられたのである。
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