初恋と罪

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 ***  その聖奈さんのことなんだけど。  僕が見たことのある彼女の姿は、大抵サッカー部のジャージ姿。校舎の中で歩いている時も、ちょっと変わった格好をしていたんだ。  うちの中学校、公立なのに制服が可愛いってことで有名だったんだけどさ。その可愛い制服を、彼女は台無しにしてたんだよな。具体的には、いっつもスカートの下にジャージのズボンを履いてた。これが冬だったなら、ああ寒いんだな、っで済んだんだけど。夏の暑い時期でさえズボン履いてるから、不思議だなあって思ってたんだよな。  せっかく女子は男子と違って、生足晒しても許される制服してるのに。というか、なんか世間の雰囲気的にとも言うべきか――一定年齢以上の男子が短パンだと微妙な顔されるのに、女子は許されるというか。なんでわざわざ暑いカッコするんだってずっと考えてた。  それに、彼女に惚れてる身としては勿体ないと思ってたんだ。男の子みたいに髪をばっさり切っちゃって、可愛い制服をダサくして。もっと女の子らしい髪型とか服装にすればぜったい素敵なのにって。――そう。  だから、ある日。僕は罪を犯した。 『聖奈さんって、リフティングもドリブルも上手いですよね。サッカーやってたんですか』  居残り練習に付き合ってもらったある日。ああ、言い忘れてたけど、彼女はぼくと一緒に練習してくれることが少なくなかったんだ。マネージャーなのに、彼女は普通にサッカーがうまかった。ぶっちゃけ、小学校でエースだったぼくが彼女からボールを奪えるようになるまで本当に時間がかかったほどでさ。 『小学生までサッカーやってた、とか?』 『まあ、そんなところだ』 『やめちゃったんですか、勿体ない』  ふと、疑問が沸き上がったのである。彼女のパスを胸で受け止めて、ずっと思ってたことをいくつも尋ねてしまったんだ。 『それに、聖奈さんって不思議ですよね。なんで制服着てる時、夏もずっとジャージ下に履いてるんですか。絶対あれ、無い方が可愛いのに勿体ない。ていうか、髪伸ばしたりしないんですか?聖奈さん、美人だし……』  そこまで言ったところで。彼女がなんとも言えない顔で俯いていることにやっと気づいた。  ほんのちょっと、気になってたことを訊いただけ。  あとは、自分なりに彼女を褒めただけのつもりだった。だけど。
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