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同時に、彼女が僕の居残り練習に付き合ってくれたのも、それが最後になってしまった。
そして僕達の学校は全国へは行けたものの、初戦で敗退。僕の気持ちは宙ぶらりんのまま、彼女が卒業するその日を迎えることになったんだ。
『聖奈先輩!』
『あ……勝弥』
卒業式が終わったあとの廊下で、僕は彼女を見つけて呼び止めた。その日だけ彼女はスカートの下にジャージを着ていなかった――多分先生に許して貰えなかったんだろう。ずっと見たかったはずの、ズボンを履いてない彼女の可愛らしい制服姿。それなのに、今は胸が痛くて仕方なかった。
『……ごめんなさい!あの日……居残り練習の日、酷いこと言って、本当にごめんなさい!』
その時やっと僕は、ずっと言えなかった言葉を彼女に告げたのだ。
『僕……先輩のこと応援してます。いつか本当の先輩を見てくれる人が現れること、その人と一緒に幸せになれること!僕……僕は確かに心も体も男で、男として幸せに生きてきたけど、ちょっとわかることもあるから、その……』
卑怯だと、わかっていた。
でも、言わずにはいられなかった。
『でも……僕も、絶対に叶わない恋をしてたから、わかるんです。……想いが伝わらなくても、僕は。その人の未来を、応援したいです』
その言葉で、彼女も察しただろう。僕がずっと彼女に片思いをしてきたってこと。
世の中には、いろんな恋愛趣向の人もいる。同性のことも愛せるって人もいるし、男になりたいことと恋愛対象はまた別の問題だということも知っている。だから、ほんの少しだけ淡い期待があったのも事実だ。でも。
『……ありがとう。でもって……ごめんな』
彼女の泣きそうな顔と、その返事が全てだった。
『次にもし会うことがあったら、その時は完全に“俺”になってるかもしれないけど。もう“聖奈”じゃないかもしれねえけど。……それでも』
『先輩は、僕の最高の先輩です。……なんなら、親友になってくださってもいいんですよ?』
『はは。言うじゃねえかお前も』
許された。そう思ったのは、一体どっちだっただろう。
お互いに握手をして、僕は彼女と別れた。
同時に僕の初恋も、ひっそりと息を止めたんだ。
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