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敬具、あなたの羊より
十月十二日、それは私の心の中が一番輝いた一日になった。
待ちに待った修学旅行初日、親友の真美に肩を支えられながらも一歩ずつ確実に歩み、咳き込みながらも京都行きの電車に乗った。
生まれてこのかた故郷から出たことが無かったため、車窓から見える景色のすべてが太陽のごとく光輝いていた。
きれい……。
京都に着くと早速全体行動で清水の舞台へ登ることとなった。
心持ち晴れやかで一段一段石段を踏みしめ、重い足を最後の段にゆっくりと着けた時、眼前にはカエデやイチョウの葉が『オーロラ』のように一面に広がっていた。
一枚一枚が自己を示し、互いに重なりあって、私たちのように、このクラスのように眩く光合っていた。
そのあとも食べたことの無いような高級料理をお腹いっぱいに食べ、来(きた)る明日の班別行動に胸を膨らませながら布団に入った。
明るい妄想が泡のように現れては消え、現れては消えを繰り返し、次第に深い眠りについた……。
深い、眠りに……。
「落ち葉は枯れ、やがて土へと還っていった……。」
黒いスーツを纏った男が再びビデオの再生ボタンを押した。白衣を着た男達がダイアルを回していくと、謎の機械を頭に付けられた少年少女が次々と悲鳴をあげていった。
「ごめんなさい!!もう、もうしませんっ!!」
「許して……。許してってば!ねぇ、お願い!お願いします!!」
見るにも聞くにも耐えぬ情景。子供達の前にはモニターがあり、自分達がいじめてきた光景を羊の視点から映し出されていた。
彼らのVRにも同じ映像が流れていた。手足や顔に付けられた電極からは映像に合わせて殴られた箇所に電流が走り、脳に埋め込まれたチップからはその時々の羊の思考・感情、全ての苦しみが絶え間なく流れている。
痛い。つらい。苦しい。怖い。もう嫌。助けて。なんで私なの?やめて。なんで。楽しいの?嫌い。怖い。苦しい。死にたい。痛い。真美、助けて…。助けて。死にたい。痛い。怖い。もう嫌。死にたい。苦しい。つらい。死にたい。死にたい。死にたい。死にたい……。
紅葉は落ち、黒くなり、徐々に枯れて、そして消えた。
モニターの置かれた教室で、真美は一人泣いていた。
「ごめん、ごめん朱理……。ごめん、気づけなくて……。」
スーツを着た先生が近づき、真美にダイアルのついた機械を渡した。真美は歯を強く噛み締め、ダイアルを最大まで回した。
そして先生が悲鳴をあげ続ける生徒に向けて言った。
「今年の旅行は楽しいかい?」
生徒達は旅行という名の夢を見る。
約一年半を二泊三日で。
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