第七章

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冬休みも半ば、もうすぐ新年を迎えるこの時期には、職員室ですら悠と担任の2人しかいない。寒々とした室内は普段の賑わいとの落差で、担任と共に無音のプレッシャーを与えているよう悠は感じた。 「…ま、いーや。武士にはなんか相談したのか?」 「武士さん?」 顔を上げて問えば、苦虫を噛み潰したような担任の顔とかちあう。 高校の同級生だったという武士とこの担任は、どうやらすこぶる仲が悪かったようで、今だに話題をふるだけでも嫌がられる。 「ずいぶんヤツを信用してたじゃねぇか。」 「…別に、話すような事は」 「あそ。」 「軽っ」 「ヤツには相談できないような事で俺には相談できるなんてのもなかにはあるだろ。言いたくなったらいつでも来いよ」 「あ…は、い。ありがとうございます。」 軽いのか軽くないのか判りづらい担任の励ましを背に職員室を後にした。 ****・****・****・・ …side悠 寒すぎると感じていた職員室内も、一歩外に出ればそのありがたみがよくわかる。 身を切るような寒さに震えながら、俺はザクザクと雪を踏みしめ校舎から離れる。向かう先は校門を出たバス停、滑って転ぶことのないよう気をつけながらも寒さに急かされ自然と早足になる。 鞄に入った模試の結果がやけに重く感じて。誰かが自分を憐れんでいるような、嘲笑っているような惨めな気持ちが喉元まで埋め尽くしている気がして、バス停を待たずに一度止まって深呼吸をした。寒すぎてうまくいかず咳き込んでしまったけど逆に苦しさで思い切り頭は切り替えられたかも。 冷静になれ。受験に集中しろ。 ペチペチと頬を叩いて呟けば、幾分か気が楽になった。この寒さも頭を冷やすために一役買うようで、冷たい風が吹く度に詰め込まれた悩みが消え、ただ本能のままに暖かい場所を探そうと体が動く。 飛び出すように校門をくぐり、そのままバス停へ直行しようとした俺を止めたのは、やけに小刻みに響かせる車のクラクションと聞きなれた声だった。 「はーるかー!おーい」 「武士さん」 俺はこの時はじめて、曇る視界が自分で出した白い息以外のものであると気付いたのだ。
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