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第七章
「野々宮、野々宮、と…おぉあった。12月20日の模試結果だよな」
「あ、うん。先生ありがと。あとさ、職員室でタバコ吸うのはやめた方がいいと思うんだけど…」
「うるせぇ。俺に意見するやつは死ね。」
教師の台詞じゃない、という言葉はかろうじてのみ込んだ。
県内有数の進学校、その中でも3年の担任ともなればそれなりの苦労やプレッシャーもあるのだろうと、疑問を持ちながらも委員長として支えていこうと決意したのは今年の4月。悠が3年に上がったばかりの頃だった。
その決意はわずか2ヶ月で「子守り」の心境に変化したものの、どうにも教師らしくない、むしろ人間としてどうにもならないこの担任に好感を持っているのもまた事実なので困ってしまう。
「はいはい。もらえただけでも感謝してますありがと」
「んだその気のない返事は。担任様のアドバイスも聞いてくか?」
「んー…いいかな別」
「そうか聞きてぇか。めんどくさいけどしょうがねぇなぁ。委員長にお願いされちゃあ断れねぇ」
「…」
悠の返事を待たずに隣席の教員の椅子をひき、叩きつけるように模試の結果とあめ玉をスチール製の教員机に置く担任の様子をみて、悠は小さく溜め息をついた。こうと決めたらテコでも動かない人間が周りに多すぎるのは、こうして悠が折れてくれるせいもあるのだろう。
「…お願いします」
「ん。第一志望の白大は大丈夫だろ。奨学特待生になるんだったら気は抜けないけど、まぁ圏内だな。第ニ志望の相大は受けんのか?」
「いや、白大に絞ろうと思ってます。別にセンターだから両方出してもいいんだけど、気持ち的になんとなく。」
「わかった。あと、この第三志望のやつは?」
「それは…思いつきで書いただけです」
「思いつきで今の時期に書くか?県内志望のお前が東京の大学なんて。しかもレベルかなり違うし」
「…」
返事の代わりに、悠はそっと机に置かれた紙を見つめた。これまで埋めたことのなかった第三志望の欄には、少し前までは考えもしなかった、ただほんの一瞬だけ、ふとよぎった大学の名前が記載されている。声に出すと、自分でも不思議なくらいの違和感に襲われる。
まるで夢を見ていたような、それ
確かめるように、悠の指先がそっとなぞってみた。
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