第七章

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武士さんの拳骨をくらったのだと気づき、ガンガン鐘がなる頭を押さえた。車体が揺れ少し薄暗くなったかと思い顔を上げれば、すぐ目の前には武士さんのドアップ。車を路上に止めシートベルトを素早く外した彼がのし掛かるようにして俺の体を固定させたのだ。 「西大ってのは葉介が進学する大学だろ?同じ大学に行けばいいじゃねえか」 「べ、別に葉介がいるからだけで受けたわけじゃなくて、そもそもC判定だし、それに…。」 「それに?ん?」 なんだこのなんかする5秒前みたいな距離は。体温や吐息が直に感じられて、圧迫感の他にも困惑と気恥ずかしさが俺を襲う。 離れるよう声をかけようと、口を開けたその時だった。 「俺はな、甘い、甘いと言われてきたんだ」 「はい?」 「溺愛にも限度があるとか、悠だけ特別可愛がってるとか…俺はそうは思わなかったが、あながち間違いでも無かったかもしれんな、なぁ悠」 耳を蕩けさせる心地いい声音が、いつの間にか地の底から這うような低音ボイスになっている。幼い頃からの刷り込みで危機を察知したが、隙間なく覆い被さる武士の身体で防御がとれない。 「た、武士さん」 「いつまでもウジウジウジウジ。そんな子に育てた覚えはねぇぞ!さっさと那加葉介追っかけてけばいいだろうが、んの馬鹿!!」 「…っ痛い!!」 とどめの頭突きと怒声に思わず頭を抱えた。 吐くだけ吐いたら満足したのか、1つ大きく鼻を鳴らして運転席へ体を引っ込める運転手。自分のシートに思い切り倒れ込んで、車体まで揺れた。 突然の説教に心臓がドキドキして武士さんの顔をまともに見れない。言われた内容も内容だ。アンタに育てられた覚えはない、と言えるほど空気が読めない人間ではないが、それでも聞き捨てならない台詞があった気がする。 「武士さん、葉介の事って…」 「なんだ葉介のことじゃねえのか?」 「適当だったんですか!?あんな全力で説教しておいて」 「まぁな、俺の発言は8割テキトーだから。でも当たる確率かなりでかいぜ。お前に関しちゃ10割当たる」 「怖っ!キモっ!」 「キモいとかやめろ。泣くぞ。…ま、でも当たってんだろ?」 そう言いながら武士さんは膝に乗せてある俺の右手の上にそっと、自分の手を重ねた。
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