第七章

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いくら俺が悩んでようが、世界は変わらず変化する。新たな悩みを持ち込みながら。 …side葉介 そう遠くない昔、勝手に俺の婚約者が決まっていたように、今回もまた駿介兄さんの結婚がいつの間にか決まってた。 みんななんで俺に言わねぇの?おかしくね?と松井に問い詰めたけど、松井の睨みに3秒で降伏した。手を煩わせてすみません単に俺の情報が遅いだけでございます、って言いながら土下座した。 事後報告の神でも俺の背後に憑いているのか…真剣に悩むべきだろうか。てか寂しっ。 「おめでとう兄さん。」 「あ、ありがとう…えへっ照れるなぁ」 「えへっとかキモいから止めなさい殴りますよ」 「「す、すみません…」」 はっ!!松井大魔人の容赦ない言葉に、思わず俺まで謝ってしまった…相変わらずの畏怖オーラだ。てか女のくせに強すぎんだよ。こいつの彼氏とか絶対ゴリラだろ。ゴリラかライオン。それかクジラ。 考えた思考を松井に悟られないよう、俺は目の前の幸せ満載な、バックに花やら天使やらコーラス隊やらを背負った兄に目を向ける。 大学入学までハムスター学者になりたいと叫び、いざ跡を継ぐと決まって経営学を始めたあのアホの駿介兄さんが…。てゆうかろくに女気も無かったくせに、いつの間に出会ったんだ。 「他社のパーティーに招かれた時に、彼女…妻に一目惚れしてね。思いきって話しかけたんだ。」 そう語る駿介兄さんはいかにも幸せそうだった。それはもう、婚約しかしてないのに夫きどりな態度も許せてしまうくらいの。 相手は見たことなけど、よっぽどの事が無い限り上手くいくだろう。誰より人に優しい彼に、全力で愛されているのだから。俺はそう確信した。よほどの事、と言えば…。 「そういえば、ま、松井さんは?賛成なの?」 「私ですか?まぁ賛成ですね。駿介さんのような方と添い遂げようと考えてくださる、寛大で慈悲深い女性ですからね。反対する理由がありません。」 …馬鹿にされてるわけじゃない、よな。ちょっと遠回しなお祝いの言葉だと信じたい。まぁ駿介兄さんが祝辞だと信じてるからいいか。結果オーライ、うん。 複雑な心境と共に意外な松井の反応に首を傾げた。なんとなく、そう、なんとなく俺的に、松井は駿介兄さんの結婚に反対すると思ってたのだ。 「本当に賛成?」 つい本音がもれる。別に松井の言葉を疑ったわけでもないのに、俺はなんで聞いたんだろう。目の前で不思議な顔をする兄さんと、眉間のシワがさらに寄った松井を交互に見ながら、俺は慌てて訂正の言葉を口にのせた。
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