協奏曲は始まらない

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協奏曲は始まらない

白いシックな外壁にガラス張りの外観、一見お高く止まっているようだけれど中に入れば木の温もりがあるカフェ風の内装。渋谷代官山がいかにも似合うその美容室が気に入って私はそこに就職した。 地元ではほとんど目にしない仰天価格のハイセンスな服屋や洋菓子店やらが並ぶ通りに美容室“Rico”があった。 立ちっぱなしのふくらはぎの痛みがいつにも増して強い。地元から上京したばかりで、さらには洗練された店で働く緊張から余計痛みを強く感じているのだろう。 店内の清掃を終えて店を出たのは二十二時だった。 魔法みたいなネオンのきらめき、都会の真ん中を通って帰路についた。 すぐにメイクを落としシャワーを浴びる。ふくらはぎの痛みを和らげるためにお風呂に浸かろうと思ったがその時間も惜しくなりやめた。明日も早い。 ご褒美に冷蔵庫でキンキンに冷えた林檎味のチューハイのプルタブを開ける。炭酸が弾けるような音を響かせた後テレビをつけた。 『君の笑顔、シュワっと弾けた』 音楽ガールズグループのリーダーの台詞の後、軽快かつどこか切ないメロディが流れた。頭から離れないこのテクノミュージック、最近は一日に何度も流れている。渋谷のスクランブル交差点でも見かけるCMで店のあちこちでも流れていた。 作詞作曲家兼音楽プロデューサーの中村奏太が作った音楽はCMだけではなくドラマや映画に誰もが知る有名ゲームや国民的アニメ、駅メロにも使われていた。日本国民は今や彼の作った音楽を耳にしない日はないだろう。
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