協奏曲は始まらない

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「高橋さん美容師似合う。応援する」 奏太が穏やかに目を細めながら笑う。 「奏太は?そんなに才能あるんだから作曲家になるの?」 「いいや。これくらいの音楽、作れる人なんてざらにいるんだ」 「そんなことないよ。いつまでも頭に残るあんなメロディたち、初めて聴いたよ」 私は真面目な顔になって奏太を見つめる。 「CD会社に音源送ってみたら?」 「そんなことしたら笑われちゃうよ」 「笑われないよ。笑われたとしてもそれがなんだっていうの。奏太の才能は私が太鼓判押す。私昔から、審美眼だけはあるんだから」 ふんと鼻を鳴らしながら言ったら、自然と声が大きくなってしまった。 「ははは」 奏太が心底おかしいという風に大笑いしていた。 「なによ」 私は口を尖らせる。 「僕さ、曲を作る時は家で“シンセサイザー”を使って作るんだ。ネットで一曲だけ発信してみようかな」 「うん、やりなよ!」 「高橋さん歌ってもらっていい?今日、僕の家で」 「私が?奏太渾身の一曲目の配信曲を?私、歌全然上手くないよ」 「歌は加工するから上手い下手は気にしないで大丈夫。それに初めて世に出す一曲目は高橋さんの声で作りたい。高橋さんの声が好きだから」 私は一瞬胸がドキリと鳴り、動揺してしまう。奏太は『声』を好きと言っただけで深い意味はない。急いで跳ねた気持ちを抑えるように努めた。
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