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秋の夜、鬼が笑う。
まったく、この女ときたら、なにも分かってねえな。もうとっくに、鬼の【印】が付けられていることに。
まぁいい、人間だろうが、妖だろうが。
ほかの男にくれてやるつもりは、毛頭ない。そもそも、俺を残してマヤだけ死ぬこともない。
なぜなら、そういう宿命なのだから。
マヤが天寿をまっとうするときは、畳のうえでも病院のベッドのうえでもなく、亡骸になった俺の腕のなかだ。
さて、時間はたっぷりある。
じっくり口説いて、四六時中、俺だけを求めるようになるまで、あとどれくらいかかるか。ゆっくりと浸食していくのも、悪くない時間の使い方だ。
アスラは車窓に目を向ける。
夜の山道には、魑魅魍魎がつきものだが、今宵はアスラの気配を感じとってか、ずいぶんと大人しい。トンネルのなかですら、もぬけの殻だ。
もう、これ以上、マヤを怒らせたくないというのに、これではまったく気が紛れない。ちょっかいを出したくて、たまらなくなる。
――ああ、今夜も、いい匂いがする。
宿命の伴侶の匂いは格別だ。
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