鬼の戯言

22/24
前へ
/28ページ
次へ
 人外相手云々(うんぬん)についてはキレイさっぱり忘れ、怒りは怒りのままにアスラにぶつけることにしたマヤ。 「わたしのお里はどこでもいいのよ! いまは、そういう話しをしているんじゃないのっ! わたしがいま云いたいのは、アンタのさっきの戯言についてよ。馬鹿も休み休み云えっつってんのっ! そこらの鬼には、わっかんないかなあっ!」  一気にまくしたてるマヤに、そこらには決していない鬼のアスラが首をかしげた。 「俺は、馬鹿じゃないぞ。黄泉比良坂所のなかでも出世街道まっしぐらな鬼……」 「だから、そういうことじゃないのっ!」  残念ながら、鬼と人の会話は一向に噛み合うことがなかった。  ――はやく帰ろう。  もうこれ以上、鬼の戯言(ざれごと)に、付き合っていられない。  西洋の魔物にしろ、東洋の妖にしろ、古今東西ヤツらは美しい容姿を武器に、人間を誘惑するのが大好きだ。  鬼も似たようなものだろう。  深い溜息を吐き、ステアリングを握り直したマヤは、ゆっくりと車を発進させた。 「なぁ、なに怒ってんだよ」  しかめっ面になったマヤの横顔を、今後はアスラがチラリとのぞいてくる。 「怒ってないから。運転の邪魔をしないで」 「なんだよ。せっかく口説いているのに。いっそ心のままに、俺に墜ちてしまえば楽だぞ」 「煩い、黙って。そんなことしたら、一生後悔する」 「後悔? そんなものは、死んでからすればいい」  鬼って、本当に馬鹿かもしれない。否、言葉が通じない。 「人間はね、死んだら終わりなの。だからわたしは、後悔しないように、真っ当な人生を歩むんだから。人生の終わりは畳か、あるいは病院のベッドで逝くの」 「へえ、そうかよ。真っ当な人生なあ」  鼻で笑ったアスラを横目で睨んだマヤは、口を尖らせた。  
/28ページ

最初のコメントを投稿しよう!

51人が本棚に入れています
本棚に追加