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人外相手云々についてはキレイさっぱり忘れ、怒りは怒りのままにアスラにぶつけることにしたマヤ。
「わたしのお里はどこでもいいのよ! いまは、そういう話しをしているんじゃないのっ! わたしがいま云いたいのは、アンタのさっきの戯言についてよ。馬鹿も休み休み云えっつってんのっ! そこらの鬼には、わっかんないかなあっ!」
一気にまくしたてるマヤに、そこらには決していない鬼のアスラが首をかしげた。
「俺は、馬鹿じゃないぞ。黄泉比良坂所のなかでも出世街道まっしぐらな鬼……」
「だから、そういうことじゃないのっ!」
残念ながら、鬼と人の会話は一向に噛み合うことがなかった。
――はやく帰ろう。
もうこれ以上、鬼の戯言に、付き合っていられない。
西洋の魔物にしろ、東洋の妖にしろ、古今東西ヤツらは美しい容姿を武器に、人間を誘惑するのが大好きだ。
鬼も似たようなものだろう。
深い溜息を吐き、ステアリングを握り直したマヤは、ゆっくりと車を発進させた。
「なぁ、なに怒ってんだよ」
しかめっ面になったマヤの横顔を、今後はアスラがチラリとのぞいてくる。
「怒ってないから。運転の邪魔をしないで」
「なんだよ。せっかく口説いているのに。いっそ心のままに、俺に墜ちてしまえば楽だぞ」
「煩い、黙って。そんなことしたら、一生後悔する」
「後悔? そんなものは、死んでからすればいい」
鬼って、本当に馬鹿かもしれない。否、言葉が通じない。
「人間はね、死んだら終わりなの。だからわたしは、後悔しないように、真っ当な人生を歩むんだから。人生の終わりは畳か、あるいは病院のベッドで逝くの」
「へえ、そうかよ。真っ当な人生なあ」
鼻で笑ったアスラを横目で睨んだマヤは、口を尖らせた。
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