鬼の戯言

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 真っ当な人生……  自分で云っときながら、もうとっくに普通とはかけ離れた人生を歩んでいることに、マヤは気づいている。  畳も、病院のベッドも遠のいて、最悪この鬼が「おい、さっさと黄泉比良坂を通れ」と臨終をむかえて早々、自分の背中を押してきそうで嫌だ。  しかし、まだ二十代。  真っ当な人生をあきらめる前に、もう少しジタバタしたい。  もしかしたら、仏具店のとなりに都会から若い移住者がやってくるかも……しれない。  もしかしたら、過疎化まっしぐらの夜依(よい)町の現状に、 「これはマズイ」  奮起した町役場が、企業の誘致に成功するかも……しれない。  そうすれば、雇用が生まれ、人が集まり、マヤにも素敵な出会いが巡ってくるかも……しれない。  そうすれば、いつかだれかと恋をして、結婚する可能性は……ゼロとは云い切れないだろう。  結婚相手はもちろん人間で、現世に生きる現代人であるべきだ。  そうだ、そうだ。  都合のよい仮定を積み上げて決意を新にしたマヤのとなりで、鬼が嗤う。  ――おせえ、おせえ。  それはもう、手遅れだ。
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