鬼の戯言

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 日本のとある場所にある地方都市、根井(ねい)夜依(よい)町。  山々に囲まれた自然豊かな古都、なんて呼ばれ方もする田舎町には、創業800年という歴史だけはある老舗仏具店があった。屋号は『神木仏具店』といい、店主をつとめるのは、神木摩耶(かみきまや)24歳。  自由気ままな一人暮らしではあるが――先祖代々つづく店を切り盛りしていた先代の両親から「頼んだぞ」と2年前に店の登記簿やら権利書なんかを一切合切、半ば強引に押し付けられ、いまだに困惑している一人娘だ。  その両親はさっさと山をおり、いまでは新築のマンションで悠々自適な都会生活を満喫している。それに引き換え、山間にある夜依町は過疎化まっしぐら。3階建て以上の建物は、町役場くらいなものだ。  ネットショッピングが大半を占める現代で、店頭販売一辺倒の老舗仏具店の売上は、当然よろしくない。  ここ百年ほどの帳簿を遡ってみても、じつによろしくない経営状態なのだが、不思議とつぶれない。店頭客以外には、懇意にしているお得意さんも、大口の取引先もない。 「ウチの店のチラシを喪主の方に~」  葬儀社にお願いもしていない。経営努力の「け」の字もない仏具店なのに、これまで閉店の気配はまるでなかった。今もない。なぜ、つぶれないのか。その理由をマヤが知ったのは、小学生のころ。  神木家は先祖代々、『現世(うつしよ)通行料』なるもので生計を立てていたからである。  
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