鬼の戯言

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 これは、現世の仏具店と幽世の入口にある御役所の御話。 『すこし不思議な物語』だ。  1日の売上が「ゼロ」の日もめずらしくない仏具店は、お盆、お彼岸シーズンをのぞけば、ほぼ毎日ヒマである。  線香や蝋燭、金属磨き剤などを陳列しているケースを毛ばたきでひと撫でしたマヤは、ついた埃を落とすため店先に出ると、パタパタやりながら秋空を見上げた。 「早めに一雨(ひとあめ)きそうだな」  天気予報によると、午後から天候が崩れるらしく、すでに雲行きは怪しい。しかし、些細なお天気程度には、一切左右されない仏具店。晴れても、雨でも、台風でも、客足はさして変わらない。  本日の来客数も、晴れの日と変わらず今のところ「ゼロ」である。それよりも、なんだか怪しい雲行きを見上げながら、マヤはいつもの予感がしていた。  言葉にするのは難しいが、アレがくる気配をヒシヒシと感じて、 「今日もかな」  昨日同様、いつも以上に早く店じまいすることにした。  午後3時。店舗のシャッターを降ろして台所に立ち、簡単な夕食を作り置きする。  畳に置いたソファーの上でゴロゴロしていると、やはり遠く空がゴロゴロ鳴りはじめ、一時すると雨が降り出した。柱に掛かった振り子時計は、午後5時になろうとしている。  アレが近づいてくる気配をさらに強く感じたマヤは、店舗兼住居の裏手にある、今は物置きと化している昔の作業場へと移動した。
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