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「ずっと初恋」/雅也ver 前編
オレが透を知ったのは、中学の入学式の日だった。
新入生の8割が同じ小学校出身なので、緊張も無く、着慣れない制服以外は、ほぼいつも通り。
「雅也、おはよー。同じクラスだったー」
「ああ、ほんと、何組?」
「3組!」
「ちょっとクラス分け見てから行く」
仲の良い奴とも同じクラス。もう余裕な感じで、貼り出されたクラス分けの紙を見て教室に行き、式の為に列に並ぶ。並んだ所で、「入学おめでとう」と書かれた花のついた飾りを配られた。胸の所につけてと言われる。
その時。少し離れた所に落ちているハンカチに気が付いた。
誰も気づかないというか、皆、若干の緊張と興奮で騒いでいるし、当たり前なのかも。遠いから列を離れるのもなあと思ってると、何人かに踏まれてる。
何となくそういうのが、嫌い。
誰か気づいて拾ってくんないかな。
そう思った瞬間。
誰かが、そっとそのハンカチを拾った。
踏まれたハンカチを、ぱんぱん、とはたいてる。
おお、ナイス。何となく見ていると、拾った男子は知らない顔だった。
何校かの小学校から集まってきているので、2割は知らない顔。
ハンカチを持って、誰のかなと言った表情で、周りを見ているが、騒いでいる誰も、気づかない。
花を付けれたら静かにしてろーと、先生の声がする。
それで益々聞く事もできないと思ったらしく、困った顔。
まわりを知らないんだろうし、聞けないんだろうな。
そんな風に思っていたら。
そいつはハンカチを広げて、すぐ横にあったフックの所に、きゅ、と縛り付けた。まだ何の荷物もかかってないその場所で、水色のハンカチは、やけに目立つ。これでよし、とでも思ったのか。少しだけ頷くと、そいつは前を向いて列に並んだ。
列が動き出して。前に進みながら。
結びつけられたハンカチを何となく目に映す。
花が咲いてるみたいに見えて。
少しの間、眺めながら、通り過ぎた。
入学式が終わって、教室の前に戻ってきた時。
そういえばあのハンカチ、と思って、さっきの所を見たら、ちょうどさっきの奴も、そこを通る所で、ふと、少し立ち止まった。
縛って置いたハンカチが無くなっていたので、周りを見回して。
落ちてるんじゃなくて持って行ったんだろうと判断したみたいで。
良かった、みたいな顔で、ふ、と微笑んだ。
「――――……」
何か、その笑顔に。
オレも、同じように、自然と笑顔になってしまって。
なんかすごく――――……暖かい、気持ちで。
きっと、あいつと、友達になろう、と思った。
翌日の朝、学校に向かって歩いていたら。
目の前に、同じ制服。着慣れた感がしない、真新しい制服。同じ1年かなと後ろから見ていたら。――――……なんか髪の毛、フワフワした感じが、昨日の奴に似てるかなと思った。
もしそうなら、家、近いって事だよな……。
……もし昨日の奴だとしても、いきなり話しかけたらおかしいよな。向こうはオレの事知らないだろうし……と思っていたら。
不意に飛び出してきた自転車のせいで、そいつが転んだ。
多分びっくりしたんだろう。そのまま、立ち上がれずに、座ったまま、立ち去って行ってしまう自転車を見送っている。
迷うことなく駆け寄って、膝をついて。声をかけたら。
「あ。う、ん――――……」
オレを見上げて、ぽけ、と、惚けた。
あ、やっぱり昨日の奴だ。
そう思いながら。
「何だよあれ、ひでえな――――……大丈夫か? 怪我してない?」
そう聞いて。
――――……良かった、怪我はしてなさそう、かな。
支えて立ち上がらせると、ありがと、と言われた。
「オレ、お前と同じクラスだよ、昨日お前の事見た」
そう言ったら、そいつは、ふわ、と笑んだ。
ああ。――――……いつも、こういう笑い方、するのか。
でもその後、少し申し訳なさそうな顔をして。
「そうだった? ごめんオレ、全然人を覚えられてない。緊張してて……」
そう言った。
「オレ、橋本 雅也だよ」
オレがそう言うと。
「オレ、小宮 透」
「透ね。オレは雅也って呼んで? よろしくな」
「うん」
昨日見た、微笑みと同じ感じで、また、柔らかく、ふんわりと笑う。
「透って、南小?」
「そう。……雅也、は?」
あ。雅也って呼んだ。
ちょっと恥ずかしそうだけど、それは突っ込まず。
「オレは西小。8割は西小みたいだよ」
「オレ、ギリギリこっちの学校だったから、知ってるのは、隣のクラスの女の子1人しか居なくて。だから余計緊張してるんだけど」
「でも、オレの事も、もう知ってるだろ?」
そう言ったら、透は、きょとん、とした顔でオレを見て。
それから。
「……うん。そうだね」
くす、と笑って、オレをまっすぐ見上げてくる。
――――……嬉しそう。
素直。笑顔。
「な、透、今日一緒に帰れる?」
「え。 うん、いいよ?」
少しだけ間を置いた後、また嬉しそうに笑って頷いてくれる。
――――……すこし、緊張が解けたみたいな、笑みで。
前日と同じく。いや、もうその時は、もっとずっと。
――――……なんか、オレ、こいつの側に居たいなとすごく、思っていた。
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