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「そろそろかな」
壁にかけられた古い振り子時計が午前0時を指す頃、男は湯呑みの中のぬるくなった白湯をグイッと一飲みすると、立ち上がった。
寒いし眠いが仕方ない。
男には、これからやらねばならぬことがあるのだ。
男の仕事は、皆が寝静まってからやることになっている。
そうしないといけないのは何故か…。
男は、その理由を知らない。
昼間ではいけない理由があるのかもしれないが、男は聞かされたことはなかった。
先代からも、子供が寝静まった夜やるものだと教わり、疑問も持たずにやってきたので、そういうものだと思うことにしている。
そんな重労働を、この歳になっても引退せずに続けている理由はたった一つ。
男を待ってくれている人がいるから。
しかも明日は終業式。学校に行く前の子供たちを笑顔にさせなければならない。
その責任がこの男に重くのしかかっている。
老体に鞭打って行かねばならない。男を奮い立たせるのは、その使命感だけだ。
男はのっそりと立ち上がると、厚手のファーの付いたコートを羽織り、帽子とブーツを身につけると、外に出た。
「よう相棒。今夜もよろしくな」
外に出た男はそう呟きながら、操縦席に腰を下ろし、ゆっくりと前に進めた。
シャンシャンシャンシャン…。
という軽快な音と共に。
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