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その男は、恋人を失ってからというもの、自分の部屋にとじこもって、まいにち、まいにち、朝から晩まで、たまねぎをむいていました。
男の目から、あふれつづける涙は、ひとりぼっちの部屋を、あちらも、こちらも、すみからすみまで、水びたしにしていきました。
まいにち、まいにち、男のさみしい目は、六月の空のように、涙をながしつづけました。
くるひも、くるひも、けっして休むことなく、男はひたすらに、たまねぎをむきつづけました。
そしてついにある日、自分がながしつづけた、海水のような量の涙におぼれて、男は死んでしまったのです。
世界でいちばん最初に、たまねぎ自殺に、成功した男の話です。
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