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第1章 安西航 4
翌朝10時―
「よし、行くか。」
航はヘルメットを被ると、沖縄に来てから購入した50CCの中古の単車に乗るとエンジンをかけてスーパーへと向かった。
****
カートにレジカゴを乗せて航は今、スーパーへ来ていた。
「えっと…米が5Kgで野菜って言ってたよな…。どんな野菜か聞いとけばよかったな。よし、電話かけてみるか」
航は肩から下げていたボディバックからスマホを取り出すと電話帳を開いた。
「えっと…吉田のばあさん‥と…。よし、掛けてみるか」
トゥルルルルル…
トゥルルルルル…
5回目のコールで電話が繋がった。
「ああ。吉田のばあちゃん、俺だ、航だよ。今スーパーに来てるんだ。米は買うけど野菜はどうするんだ?何を買ってくればいい?え?何でもいい?何でもいいが一番困るんだよ…。あ、そうだ。こういうのはどうだ?例えば普段買えないような野菜ってのはどうだ?どんなのかって?う~ん…そうだな…。あ、重い野菜はどうだ?例えばニンジン、ジャガイモ、玉ねぎ…かぼちゃ…あと何かあるか?キャベツ?ああ、そうだな。キャベツなら1玉で買えば重いもんな。よし、任せろ。多分1時間以内に行けると思うから…ああ、じゃあな」
航はスマホをきり、ボディバックにしまうと呟いた。
「さて、急ぐか」
40分後―
航は先ほど電話で話していた吉田と言う女性の家にやって来ていた。この女性は航と同じ名護市に住んでいる。この家は何十年も昔に建てられた家で、1階建てで、家の間口がとても広く、開放的な造りとなっている。台風が多い場所なので家の周囲はぐるりと石垣でおおわれている。
青空の下、照り付ける太陽ですっかり日焼けした航は荷物が入った大きな段ボール箱を足元に置くとインターホンを鳴らした。
ピンポーン
「…」
もう一度試しに航はインターホンを鳴らしてみる。
ピンポーン
「…」
それでも反応が無い。
「何だよ…ひょっとしていないのか?」
航は玄関のドアに手を掛けると…。
ガラガラガラ…
音を立てて引き戸が開いた。
「何だ、開くじゃないか…」
航は段ボール箱を手に取った。
「よっと」
抱え上げると靴を脱ぎながら言う。
「ばあちゃーん。上がるぞー」
しかし返事は無い。
「何だよ…いないのかよ…戸締りもしないで…」
航はぶつぶつ言いながら上がり込み、台所に頼まれていた買い物が入った段ボール箱をおろし、居間を覗き込んで…
「うわああああっ?!」
悲鳴を上げた―。
****
「ごめんねぇ~驚かせてしまったかい?」
今年85歳になる吉田テルはコップに入った冷たい麦茶を航の座る卓袱台の前に置くと言った。
「当り前だろう?!畳の上で転がって寝ていたら誰だってビビるだろう?!」
航はグイッと麦茶を飲むとトンとコップを置いた。
「すまなかったねえ、本当に…テレビをつけていたら眠くなっちゃって…」
テルは航を団扇で仰ぎながら言う。
「そう、それだよ。テレビがつけっぱなしで畳の上に大の字になっていれば…死んでるんじゃないかって思ってしまうだろう?もう…本当に心臓に悪い事はやめてくれよ…」
航は頭を押さえた。実は航は小学生の時に母親を亡くしていた。突然死だった。
ある日、学校から帰ってきた航はリビングの前で母親が倒れている姿を発見した。家のテレビはつけっぱなしだった。死因は…虚血性心疾患だった。
航の母は特には持病も無く、心臓も弱いという話を聞いたことが無かった。
まさに…突然死だったのである。
「とにかく、祖母ちゃん。あまり心配かけさせないでくれよな?それじゃ俺仕事があるから帰るわ」
航は立ちあがった。
「ああ、今日はありがとうね」
そして吉田テルは航に1日の日当分と買い物の代金を受けとると、次の仕事へ向かった―。
夜8時―
「あ~…今日は疲れたな…」
バイクを押して事務所が入っているビルに近付き…航は足を止めた。
何とそこには昨夜コンビニで出会った茜が事務所の入り口前に置かれたベンチの上に座っていたのだ―。
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