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第1章 安西航 5
「あれ…あんた…?」
すると茜は航に気が付いたのか、ベンチから立ち上ると頭を下げた。
「こんばんは、安西さん」
「一体こんな時間にここで何やってたんだよ?」
航は単車を押したまま茜に近付くと尋ねた。
「あの、実はこの間のお詫びにと思ってケーキを買ってきたんです。このケーキ、今大人気にでいつもなら売り切れてしまうんですけど、今日仕事帰りにお店の前を通ったら偶然売っていたんです。それで安西さんに是非…と思って寄らせて頂きました」
見るとベンチの上には平べったい正方形の箱が入ったレジ袋が置かれていた。
「何だよ?まさかその為にわざわざここまで来たのか?…どれくらい待ってたんだよ」
すると茜は言いにくそうに答えた。
「えっと…40分…位?あ、でも安心してください。保冷剤入りですから。念のために1時間見越して保冷剤を入れてもらっています」
茜はケーキの心配をされているのかと思って、弁明した。
「バッカだな…ケーキの事を心配してるんじゃねーよ。こんな…いつ帰ってくるかも分からないのに外で40分も待ってるなんて事前に電話なり、メールなり入れれば良かっただろう?渡した名刺に書いてあるんだから」
「ええ…でも…」
「でも何だよ?」
航は首を傾げた。
「事前に連絡を入れたら、断られそうな気がして…」
「全く…」
航は溜息をついた。
(要領が悪いところも朱莉に似てるな…。最もこの女の方が朱莉より若いだろうけど…)
「それじ、とりあえず単車をガレージにしまってくるから待っていてくれるか?」
「え?ええ…?」
茜は航の言葉に不思議そうに首を傾げた。
航の借りている店舗は隣がシャッター付きのガレージになっている。航がこの物件を選んだのもその為である。沖縄は島全体を海で囲まれた場所だ。その為、海から悔いる潮風で車や自転車がさびやすい。その為にも航はどうしてもガレージ付きの物件をさがしており、格安でこの店舗の物件を見つけた時に即決してしまったのだった。
ガラガラガラ…
航はシャッターを開けると単車を押して中へしまった。そして外へ出ると再びシャッターを下ろし、茜の元へ向かうと尋ねた。
「今、時間大丈夫か?」
「え?あ…はい。大丈夫ですけど?」
「それじゃ、中へ入って来いよ」
航は事務所の鍵を開けながら茜に声を掛けた。
「は、はい」
パチッ
壁についている電気のスイッチを付けると、途端に室内が明るくなる。
「そのソファにでも座っていろよ」
航は台所へ向かいながら茜に声を掛けた。
「え?あ、あの…どうしたんですか?」
すると航は言った。
「持ってきたそのケーキ…ホールケーキなんだろう?」
「え?ええ…」
「俺一人じゃ食べきれないから、一緒に食おうぜ」
すると途端に茜は笑顔になり…すぐに顔を引き締めた。
「い、いえ…私は大丈夫です…」
しかし、次の瞬間…。
ぐぅ~…
静かな室内に茜のお腹のなる音が響き渡った―。
****
「ほら、コーヒーも飲めよ」
航はマグカップに入れたコーヒーを茜の前に置いた。
「あ、ありがとうございます…」
茜は真っ赤になりながら礼を言う。航は何も言わずにカットしてきたホールケーキに注目した。
「へえ~…レアチーズケーキか…うまそうだな」
「はい、とても美味しいらしいんです」
茜の言葉に航は顔を上げた。
「何だ?まだ一度も食べたことが無かったのか?」
「はい。でも今、こうして目の前にあって、食べられるなんて、夢のようです。」
茜はうっとりした目つきで言う。
「ハハ…何だよ、それって…。変な奴だな」
そして2人は一緒にケーキを堪能した―。
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