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第4章 大企業の御曹司 1
「おーい、栞ーっ!」
金曜日の仕事帰り、二階堂栞は同じ営業部員の九条簾と会社前のエントランスで待ち合わせをしていた。
「簾、遅かったじゃないの?何していたの?」
栞は待ち合わせの時間よりも20分も遅刻してきた簾を恨めしそうに見た。
「わ、悪い…先輩に厄介な仕事押し付けられてその処理に時間がかかちゃったんだよ…」
「ふ~ん…。仕事なら仕方ないか…。それじゃ行こうか」
そして栞と簾は2人連れ立って居酒屋へと向かった―。
****
「栞、お前、何飲むんだ?」
いつもの2人が行きつけの無国籍料理居酒屋のお座敷席に座ると簾が注文用タブレットを栞に渡しながら尋ねる。
「う~ん…そうだな…。今夜はとことん飲みたい気分だから普段飲んだことのないお酒にしようかな。よし、それじゃハイボールにしようかな?」
「へえ~珍しいな。いつもビールかチューハイなのに。一体どうしたんだよ?」
簾は言いながら自分の分の生ビールジョッキを注文しながらいつも2人で来るときに頼む定番メニューを次々と注文した。
「お酒飲み始めたら話すよ。…シラフじゃ話しにくいからね…」
栞は窓の外を眺めながらポツリと言う。
「ふ~ん…まあ、どっちみち話してくれるんなら俺は別に構わないけどな」
****
「お待たせ致しました。
」
トンットンッ
若い男性店員が栞の前にはハイボール、簾の前にはビールを置いた。他にお通しを乗せると「ごゆっくりどうぞ」と言って去って行く。
「それじゃ、乾杯しようぜ」
簾がジョッキのビールを持つと言った。
「うん、そうだね」
栞もハイ・ボールを手にすると「乾杯」と言って2人はグラスを打ち付けた。
「ングッングッ」
いきなり栞はグラスを手に取ると、ハイボールをまるで水の様に飲み始めた。
「お、おい!栞っ!何一気飲みしてんだよっ!」
簾は慌てて栞を止める。
「ふう~…」
栞は半分以上飲みほすとグラスをドンと置いて溜息をついた。
「実はさ…私、お父さんの命令で来週の土曜日、お見合いする事になっちゃったんだよね」
「は…?」
簾はあまりにも突然の事に固まった。
「全く本当にお父さんは強引だよ…。やっと仕事が面白くなってきたところだっていうのに…」
栞はもう酔ったのか、白い肌を赤く染め、目をトロンとさせながらため息をつく。
「う…」
簾はその姿を見て動悸が激しくなる。
二階堂栞・・栞ははっきり言ってしまえばかなりの美女である。大学時代は美人コンテストで優勝したこともあるほどだ。何せ、両親ともに美男美女、おまけに『ラージウェアハウス』の社長令嬢なのだから、これでモテないはずはない。そんな栞に幼馴染である九条簾は幼い頃から彼女に恋心を寄せていた。
「み、見合いって…お前、まだ24歳じゃないか!相手は誰なんだよっ!」
「それが相手はね…鳴海グループ総合商社の御曹司、各務蓮ていう人だよ。あ、そう言えば漢字は違うけど簾と同じ名前だね。何かうんと小さい頃に会ったことがあるみたいなんだけど…年齢はたしか26歳だったかな?」
「な、な、何だってっ?!お、お前…本当に見合いするのか?!結婚しちまうのかよっ?!そしたらお、俺はどうすればいいんだっ?!」
簾はあまりの突然の話に驚き、とうとう本音をぶちまけてしまった。
「は?何それ…?俺はどうすればいい?何でそんな事私に聞くのよ?大体私のお見合いと簾は無関係でしょ?」
言いながら残りのハイボールを栞は一気飲みすると溜息をついた。
「でも、もう簾ともこんな風に2人で居酒屋来るのは難しくなるかもね~」
「おい、栞…そんなに乗り気じゃないなら見合いなんかやめちまえ。お前にならもっとふさわしい奴が…。いや…無理か…。あの鳴海グループの御曹司に適うような男は…そうそういないだろうな…」
そして簾は告白する前から失恋してしまったのである―。
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