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第1章 安西航 6
「あの…安西さん。実はお願いがあってここにうかがったんですけど…」
レアチーズケーキを食べ終え、コーヒーを飲み終えると茜は航に声を掛けた。
「何だ?ひょっとすると仕事の依頼か?」
コーヒーを飲み終えて、空になったマグカップをテーブルの上に乗せると航は茜を見た。
「はい。実は私の飼い猫が1週間前からいなくなってしまったんです。それで、探してもらえないでしょうか?お金はきちんとお支払いしますから」
「ふ~ん、つまりは仕事の依頼って事だな?…成程…いいぜ、別に。引き受けてやるよ。ちなみにペット捜索料金て言うのは意外と高く取る探偵業者がいるから気を付けろよ?俺は1日3000円で捜索してやるよ」
「そうなんですか?でも1日3000円なら私も助かります」
茜は嬉しそうに言う。
「ところで、ポスターとかは作ったのか?」
「え?ポスター?」
首を傾げる茜を見て航は苦笑した。
「その様子だと…ポスターは用意していなみたいだな…」
「え、ええ…やはりいるんでしょうか?」
項垂れる茜。
「う~ん。情報は広く市民に共有してもらった方がいいからな…。どうする?ポスター用意するか?いるなら俺が作ってやってもいいけど…」
「本当ですか?!ありがとうございますっ!」
「だが、その代わりポスター代がかかるが…大丈夫か?とりあえず100枚くらい試しに作ってみようかと思うんだが…」
「はい、それでは100枚でお願いします。おいくらになりますか?」
「これは実費で10000円ってところかな?大丈夫そうか?」
「はい、勿論です」
「それじゃあ、早速ポスターを作るか…。そうだ、猫の名前は何て言うんだ?」
「クロです」
「クロ?」
「はい、色が真っ黒なのでクロって名前です。ちなみに去勢済みのメスです」
「なるほどな…。今何歳だ?」
「23歳です。」
「ええっ?!随分年だな!」
(まずいぞ...グズグズしていたら老衰で死んでしまうかもしれない…)
ところが...。
「あ、あの…安西さんから見て…23歳ってもう年なんでしょうか…?確かに安西さんは私より若そうに見えますけど…」
モジモジしている茜を見て航は固まってしまった。
「おい…ひょっとして何か勘違いしていないか?」
「え…?」
「俺が聞いた年齢は猫の年齢だぞ?」
「え…きゃあ!は、恥ずかしい…!クロは2歳です」
「なるほど、2歳か…」
航は苦笑しながらメモを取ると言った。
「23歳なんて若いじゃないか。俺は27歳だからな。」
「え?!27歳なんですか…?まだ20歳くらいかと思っていました…」
茜は驚いたように航を見た。
「ハハハ…以前から周りでも若く見られていたからな…」
そして航は言った。
「もう遅いから帰った方がいいぞ?自宅はどこだ?送ってやろうか?」
「大丈夫です。家はこの間初めて出会ったコンビニ...ありますよね?あのコンビニが入っているビルの5階のマンションに住んでるんです」
「ああ…あそこか…」
(そうか、だからあんなに服がコーヒーで汚れてしまっても冷静でいられたのか)
「それじゃ、そろそろ帰りますね」
茜は立ち上がると言った。
「ああ、分かった。あ、そうそう。クロのいなくなった場所や状況...いついなくなってしまったのかを後でメールで送っておいてくれ。あ、後写真もな?言っておくけど…猫の写真だからな?」
「もう…分かりますよ、それくらいは…」
茜は顔を真っ赤にしながら口をとがらせた。
****
「それじゃ気を付けて帰れよ」
外まで見送りに出た航は茜に言う。
「はい、それではよろしくお願いしますね」
「ああ、任せておけ」
そして茜は頭を下げると、夜の住宅街を帰って行く。その後ろ姿を見つめながら航は思った。
(ペット捜索か…沖縄に来てようやく興信所の仕事の依頼が舞い込んできたな…)
そして久々の依頼に心を躍らせるのだった―。
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