229人が本棚に入れています
本棚に追加
第4章 大企業の御曹司 5
栞がカフェにやってくる5分ほど前―。
(あ、あの席ね!)
蓮の姿を見つけたまどかは彼のテーブルから1席分開けたテーブル席を陣取ると、雑誌を取りだし、顔を半分隠すような姿で蓮の様子をうかがっていた。
そこへウェイターが水を持ってやってきた。
「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」
「アイスコーヒー1つ」
まどかはウェイターの顔も見ずに素早く応えた。
「かしこまりました、アイスコーヒーですね?」
ウェイターは頭を下げるとすぐに下がって行った。
「全く…本当にお見合いにやってくるなんて…」
ぶつぶつ言いながらまどかは蓮の様子をうかがっていると、ふとある事に気がついた。
蓮の周囲に座る女性客が熱い視線で蓮の事を見つめているのである。その時、不意にまどかの耳に2人組の女性客の会話が飛び込んできた。
「ねえねえ…あの男の人見て?」
「うん。すっごいイケメンだよね?」
「背も高いし、着ている服もすごいよ?」
「どこかのモデルか芸能人かな?」
そんな会話をまどかは誇らしげに聞いていた。
(当然よ!私のお兄ちゃんなんだから!)
しかし、そのうちにとんでもない内容を話し出してきた。
「ねえねえ、声かけてみない?」
「そうね…1人で来ているみたいだし…」
「うん、お金持ちそうだし、どこかに遊びに連れて行って貰えるかもしれないものね?」
(な、何ですって~っ!)
思わず、その女性客をキッと睨みつけた時…)
「あ!見てよ!あの女…彼に近づいてる!」
「え~…あ…何だ…デートだったのね…」
残念そうに言う2人に会話にまどかは慌てて、蓮のいるテーブルを見た―。
****
「こんにちは。各務さんですね?」
不意に窓の外を眺めていた蓮は声をかけられて振り向いた。するとそこには本日の見合い相手である二階堂栞が立っていた。蓮は立ち上がると挨拶をした。
「初めまして。各務蓮です。どうぞ、掛けてください」
「はい、失礼します」
栞は椅子を引くと、蓮の向かい側の席に座った。そしてテーブルの上にはまだ水しかのっていない事に気が付き、ちらりと蓮を見た。すると蓮も栞が何を言いたいのか理解した。
「まだ何も頼んでいないんです。二階堂さんが来てから一緒に注文しようかと思って…何にしますか?」
言いながら蓮はメニューを栞の前に置いた。
「ありがとうございます」
栞はメニューを広げると、少しの間眺めていた。そしてパタンとメニューを閉じると言った。
「そうですね…それじゃ私はアイスカフェラテにします」
「では僕はアイスコーヒーにします」
蓮は店員呼び出しボタンを押すと、すぐにウェイターがやってきた。
「ご注文はお決まりですか?」
「こちらの女性にはアイスカフェラテを、ぼくにはアイスコーヒーを下さい。」
「かしこまりました。少々お待ちください」
そしてウェイターは去って行く。
「二階堂さん、ところで…」
蓮の言葉に栞が言った。
「どうぞ、栞と呼んで下さい。私も蓮さんと呼ぶので。どのみち、私たちは結婚することになるんですし」
「え?」
蓮はあまりにも突然の言葉に固まった。
しかし、その言葉に驚いたのは蓮だけではなかった。
「何っ?!」
「何だってっ?!」
蓮たちのテーブルの近くで会話を聞いていたまどかと簾が同時に声を上げたのだ。廉は偶然にもまどかのすぐ真後ろに座っていたのである。
「え?」
「あら…?」
蓮と栞も聞き覚えのある声に2人の方を振りむく。
「ヤ…ヤバッ!」
「マ、マズイッ!」
2人は同時に席を立ち、逃げるようにカフェを後にした。
バタバタと走りっていく男女の姿を見ながら蓮と栞は首を捻った。
「い、今の何だったのでしょうね…?」
「さ、さあ…。僕にはさっぱりわかりません…」
しかし、2人の心の中ではある考えが頭をよぎっていた。
(まさか…あの女性は…?)
(あの後ろ姿…彼に似ていたわ…)
しかし、その言葉は口にしない2人なのであった―。
最初のコメントを投稿しよう!