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第4章 大企業の御曹司 6
ハアハアと息を切らせながらまどかと簾は走ってホテルの中庭迄逃げてきた。
庭に植えられた大木に手をつき、呼吸の乱れた息を整えるとまどかは簾をジロリと睨みつけると言った。
「ちょっと!あなた…いったいどういうつもりよっ!あなたのせいで2人の様子を見張れなくなったでしょうっ?!」
「うるさいっ!そういうあんただって大きな声を出しただろうっ?!俺ばかり責めるなっ!」
簾は大きな岩にもたれるとまどかに文句を言った。しかし、まどかは廉の文句に聞く耳を持たず、ぶつぶつと呟く。
「全く…お兄ちゃんのお見合いをぶち壊してやろうとここまで来たっていうのに…」
それを耳にした簾はまどかに尋ねた。
「何?あんた…あの各務蓮の妹なのか?」
「何よ…人に物を尋ねるときは、まず自分から名乗るのが筋じゃないの?それに…その様子だとあなたは二階堂栞の知り合いみたいね?」
(全く失礼な男ね…お兄ちゃんとは大違いだわ!これだからガサツな男っていやなのよ)
「俺は九条廉。あんたの今話していた二階堂栞の幼馴染だ。ちなみに簾ていうのはこの字だ」
簾はボディバックからスマホを取り出して、文字を打ち込んでまどかに見せた。
「え…?九条廉…?漢字は違うけどお兄ちゃんと同じ名前なのね?それに確か九条って言ったら…あの二階堂家と共同して経営してる九条家の事?『ラージウェアハウス』の?」
「ああ、俺の父親は九条琢磨。二階堂家と共同経営している社長だ」
「嘘っ?!それじゃ…あなた、大企業の御曹司なわけ?!」
まどはか心底驚いた様子で簾を見た。
「別に…鳴海グループほど大企業じゃないけどな…まあ、一応そうだ」
「うそっ!そんな…全然見えないっ!だって全然品位が無いじゃないっ!その…見るからに安そうなTシャツにデニムのパンツッ!よくもそんな恰好でホテルにやってこれたわね?」
「う、うるさいっ!そういうあんただって、各務蓮の事をお兄ちゃんて呼んでたくらいだから…鳴海グループの令嬢なんだろう?」
「ええ、そうよ」
まどはか腕組みしながら答える。
「なんだよ!そのド派手な格好はっ!キャバ嬢みたいな洋服…昼間から着やがってっ!」
「な、何がキャバ嬢よっ!これは外国の有名なブランドショップの服なのよ?!それにキャバ嬢の服って可愛くて素敵じゃないのっ!」
「う、うるさいっ!俺だって…一応古着店で買ったこだわりの服なんだよっ!」
いつのまにか簾とまどかは互いの来ている洋服について文句を言いあっていた―。
****
その頃、見合いの席では—
「あの…先ほどの言葉の意味なのですが…」
蓮は栞に尋ねた。
「ああ?どのみち結婚することになると言った言葉ですか?」
「はい」
「それはもちろん言葉通りの意味ですよ。私は父からこの見合い…絶対に断らないように言われているのですから」
「そ、そうなんですか?」
「ええ。もともとこのお見合い話は父の方から持ち掛けてきたのですよね?おそらく蓮さんともなると、さぞかしもっと素晴らしい女性とのお見合い話が沢山来ていたと思いますけど。」
「いえ?お見合いするのは今回が初めてですけど?」
蓮の言葉に栞は驚いた。
「え?そうなのですか?」
「はい」
「それじゃ女性とお付き合いしたことは?」
失礼を承知で栞は尋ねた。
「それはありますけど…何故かいつも途中でフラれてきました」
「ええ?!」
栞は蓮の話をにわかには信じられなかった。容姿端麗、その上日本でトップ企業、海外でも10本の指に入るほどの大企業の御曹司が一方的にフラれてきたとは…。
「でも…それで良かったと思います。栞さんとお見合する事が出来たのですから」
蓮は笑顔で言った―。
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