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第4章 大企業の御曹司 7
「は~…全く…貴方のせいでもう今更2人の見合いの席に侵入する事出来なくなっちゃったじゃないのよ…」
ブツブツ文句を言いながらまどかは足で木の根元を蹴っている。その様子を見ながら簾が言う。
「全く随分乱暴な女だな。栞とは大違いだ」
その言葉を聞いてまどかが反応した。
「栞…そう、それよ。ただの幼馴染がわざわざお見合いの様子を見に来るなんて何かおかしいと思ったのよ。貴方ひょっとして二階堂栞と付き合っていたの?それじゃあの女、男と付き合っているのに、お兄ちゃんとお見合いしているのね?!最っ低だわっ!」
しかし、それを言われて面白くないのは簾の方だ。仮にも自分が好きな女性が見合い相手の妹に悪口を言われるのは我慢出来なかった。
「違うっ!栞と俺は単なる幼馴染だっ!俺が一方的にあいつに惚れてるだけなんだよっ!」
廉は自分で言って、酷く惨めな気持ちになってしまった。その証拠にまどかの顔には同情が宿っている。
「嘘…?貴方、片思いしていたの?告白もせずに?20年間もっ?!可愛そうな男ね…」
「な、何だよ…っ!そういうあんただって、ブラコンのくせにっ!どうせ大好きなお兄ちゃんが他所の女の人に取られるなんて許せなーい!とか言って、見合いぶち壊しに来たんだろう?」
「うわっ!キモッ!この人…キモいわっ!」
まどかが両肩を抱きしめて言う。
「だ、誰がキモいだっ!大体見合いをぶち壊すなんて…おかしいだろうっ?!どうせ兄妹なんていつかは離れなくちゃならないんだから…。え?どうした?何で泣いてるんだ?」
廉は突然まどかが顔を赤くして目に涙を浮かべている姿を見て驚いた。
「…じゃないもの…」
「え…?何て言ったんだ…?」
するとまどかは顔をキッと上にあげると言った。
「私とお兄ちゃんは…本当の兄妹じゃないものっ!」
「え…?」
廉は驚いてまどかを見た―。
****
「実は僕もお見合い…最初から断るつもりは無かったんですよ」
蓮は、はにかみながら答えた。
「あら…そうなのですか?」
「はい、二階堂社長は僕がまだ赤ん坊だった頃から知っていたそうなんですよ。それに父の事も母の事も良く知っているそうなので…そう言う人の義理の息子になるのも悪くないのかなと思いまして。それに栞さんの評判も聞いていましたから」
「え…?私の評判?」
栞は自分の評判が社内で良くないのは知っていた。『ラージウェアハウス』に大学の就職活動で一般枠で応募したのだ。二階堂と言う苗字は別に珍しい事では無いので父親が社長だとバレる事など無いだろうと思っていたのだ。それに父親は会社で娘の話はしたことが無い人物だし、最終面接にも顔を出さない事は知っている。
そして栞は実力で無事に入社を果たしたのだった。勿論九条簾も実力で同期入社を果たしているのだが…入社早々に父親が社長だとバレてしまい、栞も簾も苦しい立場に追い詰められた。コネ入社に違いないと陰口を叩かれ、九条簾と2人で孤立してしまった。だからこそ、厳しい営業職を希望して実力を見せつけてやろうと今まで頑張って来たのだった。
それを見透かしたかの様に、蓮は言った。
「とても頑張り屋で、入社2年目なのに他の同期社員たちよりもずっと営業成績が良いと聞いています。しかも実力で勝ち取っているからすごいと思いますよ」
ニコニコしながら言う蓮の顔は…とても栞を安心させる笑顔だった―。
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