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第1章 安西航 8
航が茜にメールを送って1時間が経過した頃―
航はテレビのバラエティ番組を付けながら、カメラ機材のチェックをしていた。すると突然、航の仕事用スマホに着信が入ってきた。それは知らない番号からであった。
「はい、もしもし。安西です」
『あ、あの…すみません…』
遠慮がちな女性の声が受話器越しから聞こえてきた。
「はい、何ですか?」
(何だ?便利屋の依頼の仕事か?)
『実は…うちの子供が猫を拾ってきて、今うちでお世話してるんですけどそれが今日貼りだされたポスターにそっくりな猫なんです…』
「え?本当ですか?!」
航はまさかこれほど早くに反応が来るとは思わず小躍りしたくなってしまった。時刻を見ると夕方6時になろうとしている。
「あの、今その猫の画像送ってもらってもいいですか?確認したいので」
『はい、分かりました。すぐに送りますね』
そこで電話は一度切れた。それから5分後、航のスマホにメールが入ってきた。
「よし、どれどれ…」
航はメールの添付画像を開き、歓喜した。
「やった!この猫だ。しかし本当についていたな~。4、5日はかかるかと思っていたのにまさかこんなに早く見つかるなんて‥」
航はすぐに茜にメールを打った。まだ初めに送ったメールに対する返信は無かったけれども、猫が見つかった事は依頼主である茜に報告しておかなければいけない。
「でもその前に猫を保護してくれていた人に電話かけなくちゃな」
航はすぐに先ほどの女性へ電話を掛けた。
プルルルルル
プルルルルル…
5コール目で電話が繋がった。
「あ、もしもし?先ほどお電話いただいた安西ですが…この猫で間違いありません。もしご迷惑でなければこれからすぐに猫を引き取りに伺ってもよいでしょうか?」
『え、ええ…それは構いませんけど…』
何故か女性の言葉の歯切れが悪い。
「あの、ひょっとする都合が悪いんですか?それなら別の日に変更しますけど?」
『あ。いえ。そう言う事では無いんです。ただ…子供がすっか猫を気に入ってしまって…』
「ああ…そういう事ですか…」
このような迷い猫や迷い犬の捜索ではよくあることだ。だが、こればかりはどうしようもないし航にとってはもはや管轄外の問題である。
『もう、こちらも困ってしまって…』
女性が電話越しで溜息をついているが…。
「あの、とにかくこちらは依頼主に頼まれているのでとりあえず、うかがわせて下さい。場所はどちらになりますか?」
『ええ、そうですよね。こんな事言ってもそちらを困らせてしまうだけですよね…。分かりました。場所は…』
「ふう…」
航は憂鬱な気持ちで電話を切ると、スマホに着信メールが入っている事に気が付いた。画面をタップしてみると、それは茜からだった。
『こんばんは。安西さん。メールを頂いた時間は仕事中だったので電話に出る事が出来ませんでした。申し訳ございませんでした。早速ポスターを貼っていただきありがとうございました。また何かありましたらご連絡下さい。よろしくお願い致します』
航はこのメールを読み…思った。
(そうだ。茜にも一緒にクロを預かっている家に行って貰うか…元の飼い主に会えば子供も諦めて猫を渡すだろう…)
そこで航はスマホをタップして茜に電話を掛けた。
****
「安西さん!お待たせいたしました!」
茜が航の待つコンビニへと現れた。
「悪かったな。仕事が終わって帰ってきたばかりだって言うのに呼び出して」
「いえ、そんな事気にしないで下さい。猫が見つかったなら飼い主である私が迎えに行くのは当然の事ですから。それで、そのお宅まではどうやって行くのですか?」
茜は首を傾げた。
「ああ、それなら心配するな。レンタカーを借りてきたから。ほら、あれだよ」
航はコンビニの駐車場に止めてある青いミニバンを指さすと言った。
「レンタカーですか…免許は、持ってますけど私はまだ一度も利用したことないですよ」
「まあ、今はまだ単車しか無いけどゆくゆくは余裕が出てきたら車を買うつもりさ。それじゃ行くか?」
「はい!」
航の言葉に茜は元気よく返事をした―。
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