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簡単にシャワーを済ませて、届いたばかりの出前をテーブルに並べる。
雪也を寝室から呼び戻すと、雪也は心底不思議そうな顔でイスに座った。
「食って寝るぞ。明日も仕事だ」
夕飯は寝酒で済ませてしまう松永であったが、雪也がいればそうはいかない。
箸をぎこちなく使う雪也を見ながら、帰宅時間を早めるべきかと思案する。
ふと、正面の雪也が疑問を呈した。
「俺は?」
「ん?」
「俺は仕事しないの?」
首を傾げる雪也に松永ははっとして煮物の蒟蒻を口から落としかけた。
雪也をタレントとして撮影に使うのは松永としても願ったりな状況だ。
しかし今日時点ではまだ雪也の次の撮影計画は立てていなかった。
社員とも話をする必要がある。
「……明日、一緒にくるか?」
連れて行った方が早いだろう。
明日すぐに撮影とはいかないが、雪也も一日この部屋にいては暇を持て余す。
外出を許可してもいいが、葵のこともある。逃げられては堪らない。
「えっ? あ、撮影のこと? いいよ〜」
「いや、まだ明日すぐに撮影はしないが……」
何故か話が噛み合わない気がして松永は眉を顰めて雪也を見つめた。
雪也も何か齟齬が生まれていることはぼんやりと理解しているようで、えっと、えっと……と言葉を探している。
「松永さんのためにセックスするのが俺の仕事じゃないの?」
「ぶっ」
咽せた。
有り体に言えばそうではあるのだが、雪也から別のニュアンスを感じて松永は頭痛を感じ得なかった。
「……撮影があれば、お願いする。そうでない時は、特に仕事はない」
おそらく雪也は、撮影以外でもセックスをするつもりでいた。
松永の帰宅に合わせて準備をし、松永か、または他の誰かに抱かれる予定でいたのだ。
首を傾けたまま箸が止まってしまった雪也に、松永はゆっくりと名前を呼んだ。
「雪也」
雪也が勢いよく顔を上げる。
松永の指示を待つ様子が庇護欲を掻き立てて、松永は雪也の頭を撫でた。
「撮影があるときは、前もって依頼する。雪也の仕事はセックスすることじゃなくて、撮影がある時に俺の指示に従って乱れることだ。それにセックスが含まれることもあるかもしれないが、撮影以外でお前に誰かとセックスさせることはないよ」
きょとん。
擬音をつけるならまさしくそれだった。
「……しなくて、いいの?」
「ああ。……雪也が、大切だから」
頷くと、雪也は何故か複雑な表情をして黙り込んでしまった。
葛藤している顔だ。
何が雪也をそこまでセックスに駆り立てるのかわからず、松永はただ雪也の頭を撫で続けた。
「明日は、会社のみんなにお前を紹介する。今日は飯食って寝ような」
「……うん」
雪也はそれきり黙り込んだ。
止まったままの箸が、動くことはなかった。
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