撮影

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撮影

 雪也に次の撮影が入ったのは、それから一週間後のことだった。 「本番のセックスではないが、おもちゃを使った撮影になる予定だ。いけるか?」  淡々と内容を雪也へ伝える。  雪也はオヤツ……もとい餌付けの品であるあんぱんをもきゅもきゅ頬張りながら、頭全体で二度頷いた。  可愛い。  この光景がここ最近の社員の癒しとなっている理由がわかる。    松永は頭を撫でたい衝動を抑えて、雪也が食べ終わるのを待つことにした。  雪也はここ数日で急激に社員に馴染んだ。  元より社員受けは悪くなかったところに、水森と仲良くなったことが功を奏した。  へらへらして人懐こいようで人見知りの気がある雪也は、今では犬か猫のように可愛がられている。 「社長と撮影するの?」 「違う!」  無邪気に首を傾げてとんでもないことを言う雪也に食い気味で否定してしまう。  松永は男優ではない。  だからカメラの前で雪也とセックスはしない。出来ない。  その辺の下手なタレントより余程見映えがすることは確かであったが、松永は腐っても社長である。  雪也は最近水森に倣って自分を社長と呼び始めたが、その辺りの知識は欠落しているようだった。 「……俺は社長として撮影には参加するが、お前と一緒にカメラには映らない。お前の相手はちゃんと所属タレントから出すから……な」  自分で皆まで口に出してもやもやとした気持ちが湧き上がる。  本来、社長である松永が撮影に立ち会う必要はなかった。  しかし、雪也は会社ではなく松永の専属である、と理由を付けて、松永は強引に撮影スタッフに自分を組み込んだ。  自分の知らないところで雪也が乱れるのは、なんだか釈然としなかった。  深く理由を考えることは敢えてしない。  松永は経営者として無理やり感情を押し込めて、雪也の頭を撫でた。  ……我慢したのに結局撫でてしまった。  自己嫌悪する松永をよそに、雪也は目を細めてその温もりを享受していた。 「わかったぁ、社長の前でえっちなことするんだね」 「……そうだな」  何故か周囲からの視線が痛い。  へらへらと笑う雪也だけが、何も理解していなかった。
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