撮影

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 今回雪也に用意したシチュエーションは、先輩と後輩のイケナイお遊び。  先輩に誘われておもちゃプレイをしてみたら、後輩が思った以上に淫乱だった、という雪也にお誂え向きの撮影にしたつもりだ。  撮影はスタジオではなく、会社で契約しているアパートを使う。  シャワーを浴びた雪也はイスに腰掛けながら、ヘアメイクにドライヤーをかけられていた。  その顔に緊張はない。  何故か松永の方が緊張してしまう始末だ。  朝からそわそわする姿を見て坂本がため息を吐いたのも記憶に新しい。  時間が近づくと、シャツにジーンズを着せられて、雪也はベッドの上にちょこんと腰を下ろした。  室内に、相手役のタレントが入室する。 「おはようございまーす! えっ社長?!」  フォーシーズン所属の男優、澤井タカユキ(サワイ タカユキ)。  普段と同じように挨拶をしながら部屋に立ち入った澤井は、一番に松永の姿を見とめてぎょっと目を見開いた。  刈り上がった明るい茶髪に、日焼けした肌。体に密着したティーシャツが引き締まった肉体を強調する。  外国の血が四分の一入った顔は、日本人にしては彫りが深い。 「俺がいちゃ悪いか?」 「いや全然。びっくりしただけっす。篤史から聞いたけど、ほんとなんすね、社長のお気に入りって」  澤井が苦笑しつつも雪也を振り返る。  首を傾げる雪也に、澤井は手を差し出した。 「俺は澤井タカユキ。今日はよろしく、雪也」 「澤井さん! こちらこそー」  雪也がその手を握って笑顔を向ける。  澤井は勢いよく顔だけで松永を振り返った。 「雪也めっちゃ可愛いっすね! 俺がノーマルじゃなかったらコロっといきそうっす!」  澤井はやんちゃな見た目に反して本来は奉仕系の弟気質だ。プライベートでは年上の彼女がいる。  だが、フォーシーズンではその容姿から、汎用性の高い男優として重宝していた。  どんなシチュエーションでもネコの性格に合わせて対応する澤井は、タチ系の中では一番の売れっ子だ。 「……絡みの撮影は初めてだからリードしてやれよ」 「もちろんっすよ! 雪也、今日は気持ちよくしてあげるからね」 「ん。きもちくしてね」  へらりと笑う雪也を複雑な感情で見つめて、松永はベッドの横から退いた。  自然な動作で澤井が雪也の横に滑り込む。  肩と腕を触れ合わせて、澤井は悪戯に笑みを深める。  カメラが音もなく回り出した。
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