97人が本棚に入れています
本棚に追加
/47ページ
ビルを出て、当てもなく走って、雪也は溢れる涙をそのままにひたすらに走り続けた。
どうして。
どうして松永があんな目に。
いや、そんなのは決まっている。
(俺が、あの家から出たからだ……っ!)
雪也は自分の選択をこれほどまでに後悔したことは今までになかった。
松永を幸せにするために雪也は生かされていた。
そのために、あの家に、あの部屋にいたのに。
自分がここに来たのは間違っていたのだ。
雪也はついにその場に蹲った。
あの家に、帰らなければ。
あの部屋に、戻らなければ。
でも、どうやって。
途方に暮れる雪也の前に、一台の車が滑り込む。
そして、現れたのは。
「まったく、困った人ですね。お前も美冬様も」
「せん、せい」
自分に生き方を教えてくれたその人に、雪也は必死ですがった。
「あのへやに、もどりたい……っ」
「やれやれ、出来の悪い生徒には補習が必要ですね」
そして雪也は、逃げ出したあの部屋に自らの意思で戻った。
最初のコメントを投稿しよう!