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座敷童
今雪也がカメラの前でしていることと、今まで雪也が家という空間でしてきたことは大差なかった。
違うのは雪也が望んで男優に体を差し出しているということ、松永がそばにいるということだけだ。
雪也は三人兄弟の次男として生まれた。
しかし、生まれただけだった。
雪也の一族はいわゆる資産家で、会社の経営などを行う裕福な家だった。
代々、長男は一族を継ぎ、女の子供はグループを大きくするために嫁がされる。
雪也には、兄がいる。
その優秀な兄は、幼い頃より一族を任される未来が決められていた。
だから、雪也が生まれた時、両親は酷く落胆したのだ。
もう男の子供はいらない。
女の子供が欲しい。
無駄な子供を産んでしまった、と。
両親は考えた。
優秀な長男が、一族が、会社を運営しやすくなるように、雪也を利用すれば良いのではないか。
そのためには表立って行動されては困る。
両親は、雪也を死産として届け出た。
それが、雪也の運命を決めた。
「ほら、起きなさい」
「ん、先生……おはよお」
雪也の毎日は常に先生と共にあった。
戸籍も、名前もない雪也は学校に行けない。
家族もいない。いることにはいるが、ただ、事実としているだけだった。
なぜなら、雪也のもとには先生しか訪れない。
先生。
元は地下クラブで支配人をしていたという男は、雪也のためにだけ雇い入れられ、その職務を忠実に遂行した。
食べ物の世話から、風呂の使い方。
先生は、人間として生きていける最低限の衣食住を雪也に教えたが、文字の読み書きや勉強は、けして教えなかった。
契約内容に、それは含まれていない。
教えても無駄だからだ。
雪也がここから出ることは想定されていない。
一族の繁栄のために生きる。
それが雪也が唯一許されていたことだった。
ゆえに、雪也は、偏った知識ばかりを植え付けられていった。
「いきなり口に銜えるのではなく、下から舐め上げるのです」
「口に入りきらない場合は指も使って」
「もっといやらしく誘いなさい」
もっと淫乱に。
合言葉のように紡がれた呪詛。
雪也は貪欲に先生の教えを吸収した。
何のための行為なのかを理解することもなく、ただ、教えられたから身につけた。
それだけの行為。
そして、最初こそ快楽の与え方だけだった授業は、いつの日か雪也を淫乱に調教することに変化した。
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