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「俺はお前の顔なんて知らなかったから、まさか雪也が弟だなんて思わなくて」
弟、という言葉に胸が胸が締め付けられる。
「次の日、弟が逃げたって話を聞いて、俺は安心した。それから、願った。今度は自分のために人生を送れますようにって」
雪也は止まらなくなった涙と、嗚咽を零す。
会ったこともない自分のために、松永はこんなにも心を砕いてくれていたのだ。
「今日の朝、知ったんだ」
お前が、逃げたはずの弟だと。
松永の言葉に体が強張る。
絶望、したのだろうか。自分が、雪也が、弟だと知って。
「弟の行方について調べさせていた。そうしたら、お前の写真が出てきて」
「!」
雪也は耐え切れずに耳を塞いだ。
いくら大好きな松永の声でも、聞きたくなかった。
「雪也」
唇に優しい感触。
雪也は驚いて目を開けた。目の前には松永の端正な顔。
気持ち悪さのかけらもない、松永の唇。
心から焦がれてやまなかった松永からのキスは、雪也の強張りを解いた。
「聞いてくれ」
外された手を握られ、離れた唇が言葉を紡ぐ。
「あんなこと、二度とさせたくなくて、お前を開放したくて仕方がなかったのに、気付いたら知らないうちにお前に同じことを強要していた」
「ちがう!」
それは違う。
雪也は必死で松永に思いを伝えた。
松永のためならなんでもしたかったのだと。松永に抱いてもらえなくても、そこに松永がいるだけでよかったのだと。松永のそばに、いたかったのだと。
「す、き、だった。ずっと、美冬が、すきだった」
雪也は泣きながら、それでも松永に思いを伝えた。
弟だと、思ってくれただけで嬉しい。
抱いて欲しいとも、そばにいたいとももう望まないから。
だから、この思いだけは伝えたかった。
松永に幸せになって欲しい。
これは雪也の長年の願いで。
だからこそ返事など期待していなかった。
松永に罵られる覚悟はしていたけれど、思いを、返されることなど。
「愛してる」
松永は雪也の指に自らの指を絡めて、そして、優しくささやいた。
「雪也を、愛しているよ」
驚きで瞬きを忘れた雪也の顔面に松永の口付けが降り注ぐ。何度も、何度も愛をささやいて、松永は雪也に口付けた。
「俺の幸せを望むなら、ずっと、そばにいてくれ」
雪也は目を閉じて、ゆっくりと頷いた。涙に濡れていたが、松永が見た中で一番可愛らしい微笑みだった。
「おまえはもうこの家の座敷童じゃない。……俺の座敷童だろう」
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