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逃げた葵を探しに出た松永が戻ったのは、今日が終わるまで二時間をきった時分だった。
スタジオの厚い扉を開けた松永に、スタッフが今かと群がる。
「社長!」
「お待ちしてました!」
「どうでした?!」
「一息入れますか?!」
「すぐ撮影入れます!」
スタッフの群れの向こうに松永の頭が一つ飛び抜けて見える。
疲れた表情の松永は扉を開けたまま眉を寄せて立っていた。
その唇が小さく、見つけた、と動く。
「どいてください!」
それを見とめた坂本は、次々と松永に駆け寄るスタッフたちをかき分けて一歩躍り出た。
「葵を見つけたんですか?!」
ええっ?とスタッフが気色張る。見つかるはずがないと半ば諦めていただけに、その衝撃は大きかった。
しかし、松永の顔色は冴えないままだ。考え込んでいるようにも見える。
「……いや、代役を見つけた」
「代役?!」
更にスタッフが沸く。
葵を最底辺として認識している全スタッフにとって、このタイミングで現れた代役を神のような存在たらしめた。
開けられたままの扉の向こうに、期待を込めた全スタッフの目が向く。
そして。
「こんにちは〜」
坂本も、スタッフも、松永の表情の意味を正確に理解した。
松永の背後に現れたのは、どう見てもタチの男だった。
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