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プロローグ
淡い光を放つネオンを背に、テールライトが幾重にも流れる。
カップルで賑わうショッピングモールからも、酔いどれの喧騒からも切り離された高層ビル街。
松永美冬(マツナガ ミフユ)は只管走っていた。
風に流されて乱れたオールバックの黒髪が、額に幾束か張り付いている。
秋も更けて冬の色を濃くした季節に、ノーコートは幾分か季節外れだ。
しかし、邪魔なコートを持たずに冬空を走る松永は、不思議なほど絵になった。
濃紺のストライプスーツに包まれた、引き締まった上半身とすらっと伸びた足。
角ばった手首に、ブラックシルバーの腕時計が映える。
松永が前髪をかき上げると、翳を帯びた美貌が宵闇にはっきりと浮き上った。
きりりとした眉とシュッとした鼻筋。薄めに作られた唇に、二重に切りあがった眦が相まって、松永にギリシア彫刻のような精巧さを与えている。
仕草の一つ一つが絵になるといってもいいような松永は、その長い足を止め、ビルの外壁に左手を付いて息を吐いた。
「あいつ、どこに行きやがった……」
手首に目をやりシルバーの文字盤を見ると、既に一時間は走り回っている。
本来ならば予定通り父親と会食をしている時間だった。
松永は立ったまま壁に背中を預け、夜に覆われた空を仰いだ。
(なんでこんなことになってんだ?)
松永は少し頭を落ち着けようと、自分がこんなにも走り回らなければならなくなった原因を思い浮かべた。
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