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じっと栞を見つめる神崎の瞳は相変わらず穏やかで…美しい。
「… …言いたいことは、全部?」
涼しい顔でそう言う神崎から、清々しさを感じる。
きっと、おそらく…神崎の中からも一つ
肩の荷が降りたのかもしれない…
「はい…」
「…了解。よく、決断したな」
そう、穏やかで低めな声で言い、栞の頭をぽんぽんといつもの調子で優しく撫でる。
その声に、その大きな手に…
じわっと涙が誘発される。
栞がどれほど仕事に熱意を持っているのか、海外進出をどれほどの想いで辞退したのか…
栞にとって、いい加減な気持ちで決断できるような案件ではないことは確かで、その決断は断腸の思いだったに違いない。
相当に悩んで…
相当…怖かっただろう。
「…神崎さん。一つ、言い忘れてました」
涙で濡れる視線を、神崎に向ける。
と、神崎が何?と首を傾げて見せた。
「神崎さんがシドニーに行っても… …
私の憧れる先輩は…神崎さん、ただ一人ですので!」
栞の言葉に、神崎が小さく笑った。
そんな気がした。
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