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日差しもずいぶん暖かくなってきた。
早くも春の訪れを感じさせるようなひだまりの中、展望デッキのベンチに神崎と並んで座る。
「・・・課長と、話せた?」
「…はい。思いの丈は全て」
「・・・そ」
わずかな沈黙の後、神崎が隣に座る栞を覗く。
じっと…真剣な、優しい瞳で見つめた。
「… …報告。… …と、返事も…
… …もう、決まってんだろ?」
相変わらずのポーカーフェイスに、感情を悟らせない淡々とした、穏やかな口調。
どれほどこの人に近づいた気がしていても…
やはり、全くこの人には追いつけていない。
神崎にひとつ、笑顔を向けた。
そして、ゆっくりと口を開く。
「私は神崎さんに出会ってから、ずっと神崎さんの背中を追いかけてきました。少しでも神崎さんに追いつきたくて、今日まで必死で…
これから先もずっと、神崎さんの隣で、神崎さんに刺激を受けながらこの大好きな仕事と向き合って…そんな人生を、夢見てました」
栞の言葉に相槌を打つわけでもなく、表情を変えることもなく、神崎は耳を傾けている。
「海外進出なんて、夢物語と思っていたことがいざ目の前に来てるのに…憧れの神崎さんと並んで、ずっとこの大好きな仕事と向き合っていけるチャンスなのに…
どうしても、最後の一歩が踏み出せないんです」
神崎にきちんと、向き直る。
栞を見つめる神崎の瞳を、正面からしっかりと見つめ返した。
「神崎さん… …ごめんなさい。私はきっと…
ずっと恋をしてたんです。恋に落ちたその日から…
私の夢は、生涯仕事に生きることではなくなっていました。こんな中途半端な気持ちのままで…海外進出なんて大きな仕事には、臨めません。
それから…あなたの隣に立つことも…できません」
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