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ヴヴッ ヴヴッ ・・・
と、突如、翼のスマホが振動を始めた。
ディスプレイには"しおり"の文字。
…たったこれだけのことが、嬉しいのだ。
栞から着信があっただけで、この鬱々とした気持ちが晴れるような、胸の奥が暖かくなるような感覚になる。
諦めなければならない。
頭では理解しているのに…
気持ちが全くついていかない現実が
… …つらい
『しおりさん?どうしたの?』
呼び出し音が、突然通話に切り替わる。
と、少し驚いたような、翼の柔らかい声が耳元で響く。
「…お疲れさま。今、学校?」
『だよ。しおりさんは?何してるの?』
「私は、仕事が終わって…今歩いてる」
『そっか。危ないから真っ直ぐ帰るんだよ?』
他愛のない、日常の会話。
翼と出会って、こんな何気ないただの会話が、これほどまでにくすぐったいことを知った。
些細な気遣いが暖かくて、嬉しくて…
誰かに大切にされる事がこれほど心強いのだと
知った。
『… 「は?違うって…ちょ、隼也…」』
「…ごめんね、お取り込み中だった?」
電話口が何やら騒がしい。
翼の後ろから数名の男の子の声が聞こえてくる。
『だ、大丈夫!ちよっと待って…「分~かったよ!後でね?」…ごめん、しおりさん』
「ふふっ 楽しそう」
『…みんな夜のテンションでさ』
そう言った翼の背後が途端に静かになる。場所を変えたのだろうか。
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