聖なる初恋 2

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聖なる初恋 2

「想、あのさ」 「駿、あのね」  駅までの道は一直線。  道の途中で、俺たちの言葉はぴたりと重なった。 「あ、駿から先にどうぞ」 「いや、想が先だ」 「……いいの?」 「当たり前だ」  控えめな想が、積極的になる機会は滅多にない。    きっと嬉しい事が待っている。 「あ、あのねもうすぐクリスマスだね」 「あと6日で25日だな」 「うん……駿は……週末、何か予定が入っている?」 「予定? もちろん入ってるさ」 「え……そうなの? そ、そっか」  しょんぼりと想が俯く。  しまったー!  生真面目な想は、言葉通りに受け取ってしまう! だから慌てて言葉を付け足した。 「土日は想と過ごす予定でびっしりなんだ」 「え? あ……そういうことか。そうなんだ。ふぅ~ よかった」  いやいや、そんな深々と安堵の溜め息を吐くなよ。俺ってそんなに信用ないか。 「まさか俺が他の奴とクリスマスを過ごすとでも思ったのか」 「……それは……僕とかな? って、ちらっと思ったけれども、確証はないし」  想が恥ずかしそうに俯いていく。  ちらっとって……外国暮らしも長いのに相変わらずだな。  想の奥ゆかしさは今も健在だ。  我先にとしゃしゃり出るのではなく、ゆったりしているんだよなぁ。  想には、昔から上品で優しい時間が流れている。  いつも争って走り回っていた俺にとって、想はオアシスだ。 「僕は最近、毎日が幸せすぎて……だから自惚れないように自制しているんだ」  おい? そんな切なくなること言うなよ!    今すぐ抱きしめたくなるじゃないか。  朝から俺の感情はバタつている。 「そんな自制はしなくていい。想はお父さんが無事でやっと安心出来たんだ。もっと幸せを噛みしめて欲しい」 「ありがとう。朝起きたらお父さんとお母さんが笑顔で話していて、僕に『おはよう』と言ってくれたんだ。生きていてくれるだけでも恵まれているのに……お父さんが24日は駿と過ごしてきていいよと、25日は駿も家族だから一緒にクリスマスをお祝いしようと……嬉しくてね」  想が必死に喋る様子に、胸がキュンキュンする。  不器用で生真面目で最高に可愛いのが、俺の恋人だ。 「最高のお誘いだな。24日は二人だけで過ごせて、25日は家族のクリスマスに呼んでもらえるなんて」 「あの……駿、もしよかったら、そうしてくれるかな?」 「あぁ、喜んで!」  想をハグして「好きだー そんな想が大好きだー!」道のど真ん中で叫びたい気分だ。 「今年の24日は土曜日だね」 「想を連れて行きたい場所がある」 「僕も駿と行きたい場所があって」  想が甘い笑みを浮かべると、俺はいよいよ喜びを隠せなくなる。 「それってさ、俺の部屋」 「それは……駿のベッド」  ぶほっ! 鼻血を吹くかと思ったぜ!  想ってさぁ、時々大胆になるよな~  ダイレクトにベッドを指定してくれるなんて! 「ごめん、僕……先走って」  想が真っ赤な顔で急ぎ足になる。 「想、待てって、ゆっくり歩け」 「恥ずかしいよ。駿と答えが揃わなくて」 「ばーか、最高に嬉しいのに! じゃあ決定な! 俺の家で最高のクリスマスパーティーをしよう」 「うん」 「一緒に何か作るか」 「チキンを焼こうよ」 「了解! それでクリスマスケーキを食べて、一緒に風呂に入ろう」 「その後はベッドに……だね。駿……僕たち一ヶ月以上触れ合えていない」 「あぁ、だから早く想と繋がりたい」 「待ち遠しいね」 「待ち遠しいぜ」  ほら、言葉が揃った。  クリスマスだからと、当別な何かが欲しい時期もあった。  付き合って最初の年は、二人でゆめの国へ遊びに行ったよな。  想のうさ耳カチューシャに身悶えた。  去年は都心の水族館とプラネタリウムでロマンチックな1日を過ごし、ラブホテルデビューも果たしたんだよな。まぁお母さんを夜一人にするのが心配なので、休憩のみだったが興奮した。 「今年はついに朝までだな」 「うん、お父さんがゆっくりして来ていいって」 「ははっ、想のお父さんのお墨付きならバッチリだな」 「今年は駿の家でゆっくり過ごしてもいい?」 「当たり前だ。当たり前の日常が何よりの贈り物だって、俺たちは知っているから、最高のクリスマスだ」  やがて駅の雑踏に巻き込まれる。  そんな中でも想は、いつも静かに輝いている。 「想、俺と聖夜を過ごそう」 「夜だけでなく朝もだよ」 「うっは~ やっぱり想って、大胆だ!」 「くすっ、僕も自分でも驚いている。でも駿を求める気持ちに蓋をしたくないんだ」  想が朝日を蹴る。  想って、ふとした瞬間に俺以上にカッコ良くなるんだよな。  朝日を浴びた横顔は、生気が漲り溌剌としていた。 「俺たち、またこうやって並んで歩けるんだな。それが一番の幸せだ」 「うん、今日からまた元通りだ」 「ずっと一緒だよな?」 「もちろんだよ! ずっとこの道は続いている」  満員電車の中でさりげなく手を重ねた。  想の温もりが伝わり、想いが駆け上がってくる。  週末には一つになろうと、誘ってくれている。  幸せな1週間の始まりだ!
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