絆 2

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絆 2

 想と身体を繋げてから、あっという間に2年の月日が流れた。  俺たちの初恋は、順風満帆だ。  想はあの日から何も変わらない。いや、むしろ可愛さが増している。  いつも優しい眼差しで、俺の一挙一動を見守ってくれる。  俺はそんな想が大好きで、週末になれば俺の家に呼んで、生まれたままの姿で愛し合った。  何度身体を繋げても、一向に飽きない。  想と俺の心がぴたりと揃っているから、毎回蕩けそうになる。  愛で満ちた時を送れることに、日々感謝している。 「あれ? 今日は少し遅いな」  交差点の先を見つめても、想の姿が見えない。  1分遅れるだけでも焦って走ってくるのに、もう5分以上だ。  そのことに、少しの不安を覚えた。  最近は体調を崩して寝込むことも減ったが、もしかして出掛けに具合が悪くなったとか、また貧血を起した可能性もあるな。  それなら連絡が入っているかも。  慌ててスマホを取り出すと、黒い画面にニュースのテロップが現れた。 『速報。エジプト・カイロ近郊にて現地時間の23時、50代の日本人男性が乗車した車が対向車と衝突し、死傷者が出ている模様です』  嫌な予感だ。  真っ先に思い浮かべたのは、想のお父さんの顔だった。  カイロだから違うよな? まさかな……  すぐに不安を拭えないのは何故だろう。    逆に不安に押し潰されそうになる。  それは想がいつもの時間に現れないからだ。  ふと想のお父さんを空港で見送った時に、もらった言葉を思い出す。  お父さんの逞しい手を、この肩に受けた重みが蘇る。 ……   「駿くん、想をどうかしっかり支えてやってくれ。頼む……最愛の息子なんだ」 「支えます。支え合います!俺たちはいつも……」 ……  あの日のシンプルな約束は、俺への信頼の証しだった。  お父さんはあの時祈るような表情を浮かべていた。 (しゅん、しゅん……)  想が俺を呼んでいる気がした。  これは何かあったと確信し、俺は信号が青になると駆け出した。  想が心配だ。  今こそ、想の傍に寄り添う時なのかもしれない!    不安な予感がまさか的中してしまうなんて。  玄関先で、想の青ざめた顔を見た時、ただ事ではないと悟った。 「駿……どうしよう」  事故に遭ったのはお父さんだと、既に会社を通して連絡を受けたとのこと。  想とお母さんは、動転してパニックになっていた。  俺の胸に飛び込んで来た想の肩がブルブルと震えている。息が大きく乱れ過呼吸を起こしているようだ。 「うっ……うっつ……こわい」  想は俺を見て安心したのか、涙を流した。 「落ち着け……大丈夫だ。俺がいるから……息を吸って吐いて、そうだ……深呼吸しろ」 「……お父さんに何かあったらどうしよう? 僕はどうしたら?」  ずっと両親に愛され守られて育った想にとって、過酷な知らせだ。動揺するのも無理はない。 「想、落ち着け! まだ何も分からないのに最悪のことばかり考えるな! 冷静になろう。想はお母さんを守ると、お父さんと約束しただろう」 「でも……こわいんだ」 「大丈夫だ。俺が想を守るから、想はお母さんを守れ」 「そうだ……僕……お父さんと約束をして……」 「俺も約束したよ。だから一緒に踏ん張ろう!」  冷静さを取り戻したところで、まずは会社に事情を話すよう連絡をさせた。ついでに俺も今日は会社を休む。こんなに取り乱した想を絶対にひとりにはさせたくない。 「お父さんの会社に、詳しい事情を聞きに行こう!」 「うん……そうだね。仕事中の事故だったから、会社の方が状況を把握しているようだった。あ……お母さんも一緒に行かないと」  想のお母さんは、泣きながら頭を振った。   「無理……私は無理よ……ここで待っているわ。あの人が帰ってくるかも」 「お、お母さん……それは」    想のお母さんを……今の状況で重々しい空気が立ち込める場所へ連れて行くのは、過酷かもしれない。 「でも、お母さんを一人にさせたくないよ。心配なんだ」 「想……ごめんね。怖くて……足が竦むの」 「お母さん……こんなに震えて」  想がお母さんを優しく抱きしめる。 「分かった。僕がちゃんと状況を把握してくるから、お母さんには僕がついているからね」  よし! 想の方は、冷静さを取り戻しつつあるな。 「でも……やっぱりお母さん一人残していくのは心配だ」 「それなら俺の母に来てもらおう」 「いいの? あ……駿は会社に行かないと」 「俺も今日は休むから安心しろ」 「しゅーん、ごめんね。でも……すごく心強いよ」  想が泣き腫らした目で、俺を見つめる。  想はもう俺の一部だから、俺の胸も張り裂けそうだ。  想のお父さんは、俺にとっても大事な人なんだ。  他人事じゃないよ!    事情を話すと俺の母がすっ飛んで来てくれた。 「由美子ちゃん!」 「来てくれたの?」 「当たり前よ! 私達、親友だもの! 私とここで連絡を待ちましょう。頼もしくなった息子たちに後は任せて」 「沙織(さおり)ちゃん……あの人に何かあったら生きて行けないわ」 「大丈夫よ。(ごう)さんなら事故に巻き込まれたとしても、頑丈で鍛え抜いた身体で切り抜けたはずよ」 「……ありがとう。そうだと信じたいわ」 「とにかく希望を持って待ちましょう」 「そうね、そうするわ」  母が来てくれたことで、想のお母さんも少し落ち着きを取り戻したようだ。  こういうシーンを目の当たりにすると、人はやっぱり支えてあって生きているのだなと、しみじみと思う。  今、俺が全力で支えるのは想だ。 「想、車で行こう。俺が運転するから、助手席で少し休め」 「うん……ありがとう」 「それからパスポートも持って、旅支度もして」 「あ……そうか」 「現地にそのまま向かうかも。移動のロスは減らした方がいい」 「分かった。駿がいてくれてよかった。僕だけでは気が動転して」    運転前に暗い駐車場で、想にそっと口づけてやった。     恐怖で戦慄き、冷え切った唇を温めてやりたくて。  人の温もりには、力がある。  そう信じているから。 「しゅん……ありがとう」 「俺がいるから怖くない。想なら出来る!」 「うん……駿がいてくれるから頑張れる」  そのままギュッと抱擁しあった。  どんな結果になろうと、俺は全力で想をサポートする。 「想、頑張れ!」 「僕がお父さんに会いに行くよ。お父さんの息子なんだから」 「あぁ、その意気だ!」    青い車を走らせて、一気に都内へ。  俺が想の翼になり、駆け抜けていく。 お父さん、どうか、どうか無事でいて下さい!  俺と想のお父さんになって下さい。  強く意志を持った祈りと共に。 あとがき **** 希望を持って、駿と想が力を合わせていきますよ! 昨日10スター特典をあげさせていただきました。 とても可愛い話なのでよかったら🍎🥧 『Sweet Potato Apple Pie』 https://estar.jp/extra_novels/26044707
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