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バレンタインスペシャル『冬の空、ふたつの愛』
同人誌幸せな贈りもの 第三弾『今も初恋、この先も初恋』の先行予約、BOOTHで沢山の方にしていただけて嬉しかったです。どうもありがとうございます。お礼の気持ちを込めて、想が実家でバレンタインクッキーを作るSSを書きました(前半はエッセイからの加筆転載で、後半は全て書き下ろしました)
『冬の空、ふたつの愛』
****
僕はバレンタインに手作りのお菓子を贈りたくて、駿が残業の晩、思い切って実家に向かった。
「あら、想! どうしたの?」
「うん、実はね」
両親は僕の帰宅を心から喜んでくれた。
お母さんに事情を相談すると「スノーボールクッキーなら材料も揃っているから、今すぐ出来るわよ」と提案してもらえた。
早速お母さんとキッチンに立ち、バターと砂糖を混ぜアーモンドプードルと小麦粉を加えて一つにし、生地を1時間寝かせた後、手で小さく丸めていく作業をした。
「お母さん、これで、どうかな?」
「そうそう、上手に丸められたわね」
「なんだか粘土遊びをしているみたいで楽しいね。そういえば僕が小さい頃、お母さんと子供部屋で粘土でよく遊んだよね」
「そうね、懐かしいわ」
本当に懐かしいな。
喘息が酷くて公園遊びが出来ない僕は、砂場遊びや泥遊びが出来なかった。その分、お母さんと粘土遊びをした。お母さんは、いつも子供の遊びに優しく付き合ってくれた。
「お母さんはありがとう」
「まぁ、急にどうしたの?」
「ううん、お母さんって手先が器用だから、丸めるのがとても上手だね」
「ありがとう。想も上手よ」
「そうかな? あ、転がるね」
「駿くんのサッカーボールみたいね」
「確かに!」
「そうだわ。チョコレートでコーティングしましょう。その方がバレンタインっぽいわ」
「いいね!」
楽しく作っていると、お父さんが書斎から出て来た。
「お、楽しそうだな。お父さんもやってみるよ」
「あなたが?」
「私も仲間に入れて欲しい」
お父さんがグイグイ、僕とお母さんの間に入ってきた。
お父さんって、こんなに子供っぽかったかな?
「むむむ……」
「お父さん、手伝おうか」
「いや、大丈夫だ」
お父さんの手先からは器用にとはとても言えない代物が生まれていた。
なんでも出来ると思っていたのに、成形は駄目駄目だった。
「お、お父さんってば……それ……ニョロニョロした蛇みたい」
「んん? どうして、こうなるんだ?」
「えっと、手の平の中央に置いて、もっと優しく転がさないと」
「ふむ。優しくか、力を込めすぎても駄目なんだな」
「そうみたい」
「難しいなぁ、そうだ! 私は味見係がいい」
えっ、そんな係あったかな?
「そうしよう。あそこで、いい子に待っているよ」
「あなたってば」
お父さんは椅子に座って、僕とお母さんを見守ってくれた。
その眼差しは日溜まりのように優しくて心地良かった。
「お父さん、焼けたよ」
「どれ?」
こんがりと焼き上がったスノーボールを網にのせると、お父さんがパクッと口に入れた。
「熱いな」
「あなたってば、まずは素熱をとって、粉砂糖をまぶすのよ」
「そうか、じゃあ、また、いい子に待とう」
「じっとしていてね」
「あぁ」
お父さんとお母さんって、こんな関係だったかな?
とっても楽しそう!
その後……
粉砂糖をまぶしたスノーボールクッキーとチョコをかけたもの二種類作ったはずだったのに、粉砂糖の方はお父さんが端からパクパク食べてしまった。
「もう、お父さんってば食べ過ぎだよ」
「はは、想の手作り、美味しいな」
「お母さんには敵わないよ」
「可愛い息子からのバレンタインの贈りものだと思っていただいたんだよ」
「お父さん……いつもありがとう」
お父さんが目を細めて、肩を抱き寄せてくれる。
「想、幸せそうだな」
「うん……とても、とても幸せだよ」
☆彡☆彡☆彡
お母さんがラッピングしてくれたクッキーを抱えて帰ろうとしたら、駿から電話があった。
「想、今、どこだ?」
「あ、実家だよ。ちょうど今、帰る所」
「じゃあ途中まで、迎えに行くよ」
「うん、ありがとう」
玄関を出ようとすると、お父さんとお母さんも何故かくっついてきた。
「想、途中まで送るよ」
「え? 大丈夫だよ」
「何を言う? お母さんとのデートのついでだよ」
「ふふっ」
こんな真冬の夜にデート?
「想、冬は星が綺麗なんでしょう? お母さん、肉眼で見たくなったのよ」
「あ、じゃあ僕が説明してあげるよ」
「そうか、想は天文部だったな」
「うん」
僕たちは海岸沿いを歩きながら、空を仰いだ。
明るい冬の星座たちが日没後の空を彩り、夜が更けるとしし座や北斗七星など、春の星たちが東の空を占めてくる。
「お父さん、お母さん、西の低い空に、ほら、木星が見えるよ」
「まぁ綺麗、あれね」
「未明の東の空には明るい金星と火星が見えるよ。それから……」
夢中になって星の解説していると、お父さんとお母さんがさり気なく手をつないでいるのに気付いた。
そうか……お父さんとお母さんの深い愛のもと、僕はこの世に生を授かったんだね。二人がいつまでも仲良しでいてくれるのが嬉しいよ。
「想……宙は広いな。ここは想のナレーションつきのプラネタリウムみたいで、ロマンチックだ」
「良かった」
目を凝らすと、向こうから走ってくる人がいた。
あれは駿だ。
颯爽と登場する駿はかっこいい!
「お父さんとお母さんはデートですか。いいですね!」
「駿は相変わらず察しがいいな」
「お父さんの息子ですから」
「ああ、そうだな」
駿が人懐っこく笑って、僕の手を握ってくれた。
「しゅ、駿……」
「お父さんとお母さんたちみたいに、俺たちも繋ごう!」
「目敏いね」
「お父さんの息子だからな。ん? 想からなんだか甘い匂いがするな。うまそうだ……あとで食べたい」
「しゅ、しゅーん、まだダメだよ」
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