初恋 Sunshine 3

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初恋 Sunshine 3

「駿、海がキラキラ輝いて綺麗だね。海上を吹き抜けてくる風も気持ちいい。夏の海って最高なんだね」  いつもより想の口数が多いのは、興奮しているからだ。  満足そうに目を細め、海を見つめていた。  きっと海水浴なんて殆どしたことがないのだろう。想の実家からも海は近かったのに、夏休みになっても想はいつもマンションの部屋で大人しく過ごしていた。  何度か海水浴帰りに、想の家に遊びに行ったことがある。拾った貝殻を渡すと、想は「海の匂いがするね。波の音もするかな?」と可愛く笑ってくれたので、もっとその笑顔が見たくて、綺麗な貝探しに夢中になった。  俺たちが通ったのは海水浴場近くの小学校だったので、当たり前のように夏休みが終われば、皆、真っ黒になって登校した。だが想の肌だけは、いつも白いままだった。  いつだったか「白石って、いつも真っ白でお化けみたいだ」とクラスメイトが酷い陰口を叩いたので、大喧嘩になった。  肌の色が違って、何が悪い? 想は想だ!  想が聞いたら傷つく、おばさんやおじさんが知ったら悲しむことだぞ!  俺の大事な人たちを思いやりの欠片もない言葉で簡単に傷つけんな! 言うのは簡単だが、受け取った人のショックを考えたことがあんのか!    先生に喧嘩の理由を聞かれても、言いたくなかった。  そんなほろ苦い思い出に浸っていると、想が話しかけて来た。 「しゅーん、僕はね……日焼け出来ない体質だから、ずっと海が苦手だったんだ。でもこんな風に工夫すれば一緒に楽しめると、お父さんが気付かせてくれたんだよ」 「そうだったのか、そのラッシュガードは、お父さんが選んでくれんだな」 「小さい頃、沖縄への家族旅行中に日焼けをしたら火傷のようになって救急車で病院に担ぎ込まれたことがあるんだ。しかも酷い喘息まで誘発して長く入院したことがあって。それ以来我が家では『海水浴』と『日焼け』はタブーになっていたんだ。でも今年は違ったよ」  想が家族のことを話してくれる時間が好きだ。  両親に愛され大切にされて育った想が好きだから。 「お父さんが『駿は海が好きだから一緒に行っておいで』と言ってくれたんだ。あれは嬉しかったな」 「そうか、想の家族が、俺まで大切にしてくれて嬉しいよ」 「それは当たり前だよ。駿も息子だからだ。お父さんの大切な息子なんだよ」 「サンキュ! 照れるけど嬉しいよ。そうだ、この後すること思いついた。あれを借りてみないか」  指差したのは白と青のパラソル。 「いいね! いつもマンションから眺めていて、あのパラソルの下に寝そべってみたかったんだ」 「よし、じゃあ場所を決めよう。そんで俺が借りてくる。どの辺りがいい?」 「そうだね、やっぱり海がよく見える場所がいいな」 「そうだな!」 「あ……やっぱり訂正、駿がよく見える場所がいい」 「想~」 「……パラソルの中なら手もつなげそう?」 「あぁ! もちろん、手だけじゃなく、キ……ううう、俺、とにかく借りてくるよ!」  俺の恋人は優しくて可愛くて、少しだけ大胆だ。  今すぐキスしたいのをぐっと我慢して、海の家へ走った。  ところがパラソルは、どこもレンタル中で在庫がなかった。  参ったな、想が楽しみにしているのに。  手を繋ぐのもキスするのも、全部叶えてやりたい!  だから何としてでも、手に入れたい!  全ての海の家を走り回ったが、どこも貸し出し中だった。 「ハァハァ……参ったな」  がっかり肩を落としていると、トントンと背中を叩かれた。  顔を上げると、そこには!
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