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初恋 Sunshine 4
顔を上げると、そこにはメチャクチャ鍛えられた肉体を持つ男性が立っていた。
小麦色の肌が健康的で眩しかった。
って、黒いサングラスをしているがバレバレだ。
「お、お父さん‼」
「おいおい、その名は今は伏せろ。ははっ 驚いたか」
お父さんは口を大きく開けて、子供みたいに笑っていた。
「あ……はい」
「想のペースだとパラソル争奪戦に出遅れるだろうと、私が一足先に来て借りておいたのさ。さぁ、これを使うといい」
お父さんが担いでいたのは、想が憧れた青と白のパラソルだった。
「どうして今日だと?」
「夏休み初日だろう?」
「その通りです」
「想が駿を誘うと思ったのさ」
「その通りです。でもいいんですか。これはお父さんの分では?」
「私は大丈夫だ。それから、これはお母さんから差し入れだ」
「あ……」
「駿からだと言って渡すんだぞ」
「ありがとうございます」
手渡されたビニール袋には敏感肌用の日焼け止めと、凍らせたスポーツドリンクが入っていた。
「じゃあ行くよ。二人で楽しんでおいで」
お父さんが片手を上げてスタスタと逆方向に歩き出したので、慌てて引き止めた。
「待って下さい! お父さんも一緒に泳ぎませんか」
「ありがとう。だが次の機会にするよ。駿……君はやっぱり優しいな」
「ですが」
「今日は想を頼む。あの子は日焼けするのをあれ以来怖がっているから、駿の力で楽しい思い出にしてくれないか。その、私達は相変わらず子離れ出来ない親で……悪いな」
お父さんに謝られて、それは違うと思った。
「お父さん、子離れなんてしないで下さい。親と子の繋がりは断つものではないです! 繋げていくものです。それに俺の方は、まだまだ生まれたての息子です!」
伝われ! 俺たちの想い、俺たちの願い。
「俺が心惹かれた想は、お父さんとお母さんの大切な想なんです。想の幸せは、いつもお父さんとお母さんと繋がっています。そして俺もそれを望んでいます」
「駿……君は本当に心強い息子だ」
サングラスの向こうの表情は見えないが、お父さんは目尻に涙を浮かべているような気がした。
「想が寂しがっているから、もう戻れ」
「はい! お父さん、次は絶対にご一緒してくださいよ」
「はは、是非とも!」
お父さん、しっかりした足取りで良かった。
事故に遭った時は、もう二度とこんな風に話せないと思った。
辛いリハビリも乗り越えた若さ溢れる後ろ姿に、俺の気持ちも一気に高揚した。
お父さんに孫を見せることは出来ないが、俺と想だから出来ること、まだまだ沢山ある。
海にも行こう! 山にも行くぞ!
お父さんが息子としたかった事は、俺と想の二人が一緒なら叶えていけるさ!
パラソルを担いで想の元に戻ると、想が晴れやかな笑顔で迎えてくれた。
「駿、ありがとう。パラソル間に合って良かったね」
「想のおかげだよ」
「ん? 僕は何もしてないよ」
「想がいると、世界が優しい」
「?」
想は不思議そうな顔をしていたが、本当にそうだと思う。
想と歩む人生は、今までの人生よりゆっくりだが、見える景色が全然違うよ。
一つ一つのことが大切に思えてくる。
大切だと丁寧になる。
パラソルを砂浜に突き刺して大判のバスタオルを敷いて、想を招き入れた。
「想、おいで」
「うん」
ここは俺たちだけの海の家だ。
青と白のパラソルを見上げる想の横顔は、どこまでも爽やかだった。
「あぁ、眩しいね。これは僕がずっと見たかった光景だよ。しゅーん、ありがとう」
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