初恋 Sunshine 7

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初恋 Sunshine 7

 いつぶりだろう? 海で泳ぐのは。 「あっ」 「おっと危ない」  砂に足を取られてグラッと転びそうになると、駿がさっと手を回して支えてくれた。  昨日も散々抱きあったばかりなので、心臓がトクンと跳ねる。 「ありがとう!」 「どうだ? 海は気持ちいいか」 「うん! とても」 「よかった」 「もう少し進んでみるか」 「行ってみたい」  駿に手を引かれて、海の中を進んだ。  海中でさり気なく腰を支えてもらっているので、慣れない海でも転んだりしない。  人はいつも誰かから、いろんな形で支えてもらっている。  だから僕はありがたく、駿の好意を受け止める。 「支えてくれてありがとう」 「どういたしまして! そういえば、想は泳げるよな」 「うん、水泳はスポーツの中で一番得意かも。体力作りのために長い間、習ったからね」 「いつだったか学校のプールで、想の泳ぎを見て感動した。飛沫の少ない無駄のない綺麗な泳ぎだった。そう言えば、いろんな習い事をしていたよな。ピアノや英会話、そろばんに習字も」 「そうだね、両親には感謝しているよ。少しは役に立っているといいけど」  友達がいない分、身体の負担を考えながらもいろんなお稽古を習わせてもらった。改めて思うが、僕は本当に親の愛情を受け大切に育てられた子供だった。沢山の心配をかけてしまったのに、父も母も僕を丸ごと愛してくれた。 「沢山役に立っているさ。そうだ! 久しぶりに想のピアノの音色を聴きたいな」 「もちろんいいよ。でも……ピアノは実家だから」 「だから明日は想の実家に行こう!」 「え? いいの?」 「行きたいんだよ。それで明後日は森のピクニックなんて、どうだ?」 「あ……僕も行きたい。駿のご実家にも行きたい」 「よし、じゃあ、そうしよう」  僕達のお盆休みに、特別な何かはいらない。  ただ駿がいて、僕がいる。  そして僕達の近くにあるものを、丁寧に大切にしていく。  そんな日々を僕らは過ごしている。  ひとしきり海で遊んだ後、パラソルの下に戻ってきた。 「想、少し疲れたな。休憩しよう。何か甘いものでも買ってくるよ。何がいい?」 「ん……ありがとう。そうだね……何か温かくて甘いものが食べたいんだけど……そんな物、あるかな?」 「よし! 探してくる。想は横になっていろ」  僕はパラソルの下に、丁寧に寝かされた。  身体に日が当たらないように、駿が慎重にパラソルの角度を調節してくれた。 「ふぅ……」  相変わらず体力のない身体が恨めしくもなるが、これが僕なんだから受け入れていくしかない。 「想、それでいい。そのままの想が好きだよ」  そうしていいと、駿も言ってくれる。 ****  想は流石にバテたみたいだ。  彼が温かくて甘いものを欲しがる時は、身体が疲れている証拠だ。  しかしこの真夏に温かい甘いものなんて売っているかな?  海の家の店先には、かき氷、アイスクリーム、冷たいドリンクばかり。  温かいものは、焼きそばにフランクフルトなどで、想の欲する物とは違う。  俺はまた海の家を隈なくチェックした。  ない! ない! ない!  もう戻らないと想が心配する。  だけど、想が食べたいものを届けてやりたい。  ハァハァと息を切らせて項垂れていると、そこにまたトントンと肩を叩かれた。  まさか、お父さん?  ハッと顔をあげると、くりくりとした目の小坊主さんが心配そうに見下ろしていた。 「あのぅ、何かひどくお困りのようですが、いかが致しました? あ! あなたは管野くんのご友人の駿くんじゃないですか」 「君は!」  寺の小坊主は、高校の同級生、管野の恋人の小森くんだ。  確か……大のあんこ好きの…… 「き……君は、あんこ!」 「おぉ! そうです。僕のまたの名はあんこです。あんこをお求めですか。あんこなら、いろいろ取り揃えておりますよ」 「へ?」  見れば藍色の前掛けをしていて、そこには『かんのや』と書いてある。 「今日はですねぇ、出張出店で『かんのやさん』のお手伝いをしているんです。ちなみに僕はどんなに暑くても、お汁粉は冷やしではなく温かいのが好きです!」 「それだ!」  
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