初恋 Sunshine 8

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初恋 Sunshine 8

「さぁさぁ、あんこはこちらですよ~」  ひらひらと小坊主さんに手招きされて後をついて行くと、海の家と海の家の間にちょこんと『かんのや』の屋台が出ていた。  白いTシャツを肩まで捲り上げ、額に大汗を吹き出しながらかき氷を一心不乱に削っているのは、高校の同級生の管野だった。 「かんのくーん。お客様ですよぅ‼」  すぐに俺に気付いて、快活に笑ってくれた。 「おぅ、青山じゃないか。白石とデートか!」 「あぁ、想と海に遊びに来たんだ。それより大変そうだな」 「お盆休みだっていうのに、姉貴にこき使われているのさ~ 何か奢るよ。何がいい? やっぱ宇治金時か」 「いや、お汁粉はあるか」  この暑いのにそんな注文を受けてくれるかと心配になったが、管野は嬉しそうに笑ってくれた。 「へぇ、お目が高いな。暑い夏にこそ熱々のお汁粉だぜ! うちの小豆は身体の疲れが取れるんだ」 「かんのくん、やっぱりお汁粉もお品書きに入れて正解でしたね」 「そうだな。きっと必要な人がいると風太が推すから持て来て良かった」 「あんこは正義です」  小坊主姿の小森くんが目をキランとさせて、小さなガッツポーズをするのが、勇ましいというより、可愛かった。 「そうだ、あんこは正義だ」 「ですよね!」  って管野って、そんなにあんこ好きだったか。小森くんの魅力に相当やられているようだな。まぁ、俺も同じだ。想の魅了にメロメロさ。  とにかく、この二人の会話が微笑ましくて和んだ。  二人はラブラブなんだなぁ。  俺も想とラブラブなので、ほっこりするよ! 「そうだ、もう少ししたらオレたち休み時間なんだ。一緒に遊ぼうぜ、白石はどこにいる?」  一緒に遊ぼうか。  まるで子供の頃に戻ったみたいで、ウキウキワクワクしてくるな。 「想はちょっと疲れてパラソルの下で休憩しているんだ。このお汁粉を食べたらきっと元気になるから、ぜひ宜しく頼む」 「かんのくーん、僕、ビーチボールを持ってきましたよぅ」 「じゃあ後で行くよ。それまで、これを食べて休憩してくれ」  熱々のお汁粉をカップに入れてくれた。 「熱々だな」 「あんこは正義、あんこチャージすれば、大丈夫ですよ」  小坊主くんから、心強い言葉をもらった。  青と白のパラソルの下に戻ると、想が目を閉じて横になっていた。  額に汗をかいていたので、そっとタオルで拭いてやると、目尻にも溜まっていて、まるで泣いているように見えた。  だからチュッと吸い取ってやった。  すると想が眠り姫のように目を覚ましてくれた。 「あっ……駿、ごめんね。僕、寝ちゃって」 「どうだ? 大丈夫そうか」 「ん……目を閉じたら、波の音や風の音、楽しそうな歓声が聞こえて来て、とても新鮮だったんだ」 「そうか、良かったよ。ほら、お汁粉だ」 「え? お汁粉なんて売っていたの? 信じられない」  想は目を丸くしていた。  それもそうだよな、海の家で熱々のお汁粉を売っているなんて、普通驚くだろう。 「あぁ、『かんのや』が出店していたんだ」 「あ、じゃあ……あの子も?」 「そう、救世主のように現れて、導いてくれたのさ」 「そうか、やっぱり人は人に助けられているんだね」 「その通りだ、ほら、食べて」  熱々のお汁粉を手に持たせてやると、ホッとした表情を浮かべてくれた。 「とても美味しいね。甘くて疲れが取れるよ。お母さんがね、真夏でもよくお汁粉を作ってくれたのを思い出すよ。しゅーん、ありがとう。僕のために探しに行ってくれて」  想の甘い声、甘い視線  それだけで酔いそうだ。  パラソルの中にはしっかりと日陰が出来ていたので、ラッシュガードがいつまでも乾かず想の身体に張り付いているのが少し不快そうに見えた。 「想、そのラッシュガード一度脱ぐか」 「ん……実は海水がべたついて、気持ち悪かったんだ」 「そうだよな。さぁ脱げ」  想がためらいがちにファスナーを下ろすと、禁断の甘い果実がほろりと見えて、喉がごっくんと鳴ってしまった。 「駿、そんなに見ないで……ひ弱な身体だろう」 「いんや! 最高に甘くて美味しそうだ!」 「しゅ、駿……視線がちょっと……困る」    ぷっくりとした乳首に釘付けなのが想にもバレバレのようで、さっ身体を反対方向に向けてしまった。 「ごめんな。夜になれば触れさせてもらえる場所なのに、俺って節操ないよな」 「ただの男の身体なのに、そんなに欲情してもらえるなんて、照れ臭いけど嬉しいよ。僕は駿にとって必要な人なんだなって……」  こんな時でも茶化すのではなく真面目に受け答えしてくれる想が、俺は本当に好きだ。  これが俺の好きな想の姿なんだ。 「想、背中に日焼け止め塗ってやるよ」 「うん」  手のひらに出した日焼け止めを背中から脇腹を通り胸元まで塗ってやると、想がくすくすと可愛く肩を揺らした。 「くすぐったいよ」 「すぐ慣れるさ」 「ふふ、恋人同士みたいだね」 「とっくに恋人同士だ」 「うん、そうだった」  それから胸元をトンっと指先でノックしてみると、想が振り返って甘いキスをしてくれた。 「あんこ味のキスだ」 「とっても甘いね」  幸せだ。  こんな風に二人でじゃれ合って過ごせる時間が愛おしい。  すると想が自分の胸元をじっと見下ろして…… 「ここは、しょっぱいかも?」 「想~ だ・か・ら・煽るなー!」 「くすっ、なんだか元気になってきたよ。まだ遊べそうだよ」 「良かった。管野たちとビーチボールをして遊ぼう」 「わぁ、してみたかったんだ、僕も……」  想が幼い頃したかったこと、今日、叶えてやるよ。  俺だけの力でなく、管野と小森くんの力も借りて。            
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