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部屋に戻ってプレゼントを開けると手紙が入っていた。
パステルブルーのきれいなレターセットに、小さく可憐な文字が均等に並んでいる。
要約すると、卒業しても演劇を続けて欲しいと書いてあった。機会があればまた舞台を見に行きたいとも。
そう、もう来月には中学を卒業するのだ。再来月には高校生になる。
わくわくする気持ちが四分の一くらい、残りはただただ淋しかった。
部活の同じ学年の子達は、みんなばらばらの学校に進学する。以前は同じ高校に行って、また演劇部に入ろうなどと言っていたこともあったが、蓋を開けてみれば自分は西高校、真冬は北高校、ほかの二人も東高校と南高校だった。
西高校に演劇部があるのかどうかも知らなかった。演劇は好きだし、高校だけじゃなく大人になっても続けて行きたいと思っているけれど、今の部活の仲間が好き過ぎて、気持ちの整理がついていない。
手元の便せんの文字とは対極にある、大きくて癖のある真冬の文字を思い出した。
淋しい。淋しくてイライラする。
真冬とも高校が離れてしまうのだ。
もう一度電話を手に取り、今度こそ真冬の番号を呼び出した。
耳の奥でコール音が虚しく響く。三回、四回、と数え、もう切ろうかなと思ったところで応答があった。
「美貴? 電話めずらしいじゃん。どうした?」
真冬は平気なのかな。学校が離れて淋しいとか思わないのかな。
朝、登校してから下校するまでの約十時間を一緒に過ごしている。帰ってからも電話で話したりする。会っていない時でも、なんとなく、ぼんやりと真冬のことを考えている。
それなのに、いきなり再来月から真冬と離れて、違う生活になるなんて想像できない。
「おうい、美貴?」
「……なんだよ」
「それはこっちの科白だよ」
電話口でふはは、と笑っている。真冬は楽しそうだ。
いつまでもこの声を聞いていたい。学校が離れても変わらない仲で居たい。
「今日さ、何日か知ってる?」
「んー、知ってるよ。十四日だよ。猫の森の十九巻の発売日。読み終わったら貸すね」
それはありがたいけど、今はマンガの話はどうでもいい。
「マフィー、今年は何もくれないの? バレンタイン終わっちゃうよ」
「えー、いつもバレンタインなんて気にしないのに」
そうだよ、気にしてなかったんだよ。毎年続けてプレゼントくれてた真冬のせいだよ。
「それに美貴はチョコレートそんなに好きじゃないじゃん」
「好きじゃなくないよ。そりゃあ、一度にたくさんは食べられないけど」
「でしょ?」
「でも腐るものじゃないから冷蔵庫に入れて、少しずつ長く食べるんだよ」
我ながら、年寄りくさいことを言っているな、と思う。
「一年生の子はくれたのに、マフィーはくれないの?」
普段、親にすらおねだりなんてしないから、どんなテンションで言えばいいのか良く分からない。それに、真冬に焼きもちを妬かせたかったという気持ちも少しあった。
いつも自分ばかりがヤキモキしているから、たまには真冬も妬けばいいのにと。
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